「ダイビング中は呼吸を止めない」は絶対なのか ~水中写真家の視点で考える~

こんにちは、上出です。

今日は、水中撮影時の呼吸

について考えていきたいと思います。

ダイバーの方は皆さんご存知かと思いますが
「常に呼吸を続け、どんなことがあっても絶対に息を止めない」
というのが、スクーバダイビング中の呼吸のルールです。

これはどの指導団体の教本にも書いてあるはずですし、僕もOWD講習(Cカード講習)を実施する際は100%この話をします。

でも皆さん、何となく思っているんじゃないでしょうか…

「呼吸をおく」なんて言い方でごまかしてるけど、
実際にはインストラクターも呼吸を止めてる瞬間があるんじゃない?

って。

基本的には、
「呼吸は止めるべきではない」
という前提を踏まえた上で、

ここではあくまで一人の水中写真家の実践記として、僕が自らの責任のもと経験してきた事をお話ししていきますね。

まず初めに、何故ダイビング中に息を止めてはいけないのでしょうか?

その答えを端的に言えば、
息を止めたまま水面に向かって浮上していくと、
圧力の減少に伴い肺が膨張し「肺の過膨張障害」
という重大なトラブルを引き起こす
からです。

つまりこれは、
呼吸を止めることそのものがいけない
のではなく、

呼吸を止めたまま浮上してはいけない

と言い換える事ができます。(あくまで「肺の過膨張障害」という観点から見ればです。

この前提を踏まえた上で、
僕がこれまでどのような呼吸法で
水中撮影に臨んで来たのか紹介していこうと思います。

 

◆水中マクロ撮影
実は、最近ではあまり意識すらしていないのですが、水中マクロ撮影でシャッターを切る際には、
僕はおそらくかなりの確率で呼吸を止めています

格好をつけて言えば、
水中マクロというのはわずか1mmの世界で
ピントとフレーミングの勝負をしているため、

自分がここだと思った所で
完全に静止してシャッターを切りたい
という気持ち(感覚)があるんですね。

そのため、
呼吸による体の微妙な動き、
特に浮力変化による上下運動をなくしたい、
という思いが自然に湧いてきます。

ハゼやウミウシ、エビやカニ等の生物を撮影する場合は、
もちろんその場所の環境しだいではありますが、
僕は着底してマイナス浮力で撮影する事が多いです。

正直、中性浮力でのマクロ撮影はかなり難しいので、
ドロップオフで着底できない場合以外は
ほぼマイナス浮力で撮影しています。

ですので、
何かBCDのトラブルでも起きない限りは、
マイナス浮力で着底している状況から
急浮上してしまうことは現実的にはほぼないだろう
というのが僕の正直な考え方です。

実際には急浮上しそうになった瞬間に
呼吸を再開すれば良いので、
マクロ撮影中の息堪えが原因で肺の過膨張生涯を引き起こす
というのは、僕の経験上、あまり現実的ではないかなと思っています。

それから、
僕の場合は息を吐き切った状態で止めることが多い
ということも付け加えておきますね。
BCDの空気を完全に抜ききって超マイナス浮力で撮影するなら、
そもそも呼吸による体の上下運動はあまりないかもしれませんが
僕は「ちょっとマイナス浮力」くらいで撮影する事が多いため、
息を吐き切った状態で止めた方が体が安定します。

そして当然、その方が
過膨張障害のリスク回避と言う意味でも理にかなっています。

 

一応補足しておきますが、
目一杯吸った状態で息堪えをすると
すでに肺が100%近く膨張した状態なので、

そこからちょっと浮上しただけで
過膨張障害を引き起こす危険性があります。

これは絶対にやってはいけません。

ちなみに、吐き切った状態だと
長い時間息を止めていられないので、

一瞬の刹那に全ての神経を集中させることができる

という決め台詞でこの項は締めくくりたいと思います。笑

 

 

◆水中ワイド撮影
はっきり言って、マクロは別にいいんです。(急に投げやり。笑)

気をつけないといけないのは、
ワイド撮影時の呼吸です。

 

 

ワイド撮影とは言っても、
このように動かない被写体を撮る場合なら、
マクロ撮影と同じ考え方でもそれほど大きな危険はないと思っています。

僕が最も気を遣うのは、
中層を泳ぐ生き物を撮影する時です。

注意すべき理由は2つあります。
①自分の吐いた息が画面に写り込んでしまうため、
 画作りを追求すると息を止めざるを得ない。
②撮影に夢中になるあまり、被写体が徐々に深度を上げながら泳いでいることに
 気付かずについて行ってしまいがち。

特に僕が神経をとがらせるのは、こんな場面です↓

 

 

当たり前のテクニックとして
実践されている方も多いかもしれませんが、
水中ワイド写真を撮る際には太陽を画面の中に入れるとメリハリが出ます。

そして、太陽を写し込むためには
カメラを水面の方に向けなければいけません。
(煽って撮影するというやつです。)

当然煽って撮影しようとすれば、
自分の吐いた息がゆらゆらと水面に向かっていく様子もばっちり写ります。

呼気も作品の一部として入れる場合を除けば、
できるだけ余計な泡は画面の中に入れたくないですし、

入れないためには息を吐かないようにするしかありません。

つまり僕にとっては、
水中ワイドを撮る際には
息を止めざるを得ない場面があります。

しつこいようですが、
今一度最もやってはいけない事を確認すると

息をめいっぱい吸った状態で止める
→そのまま水面に向かって浮上する

というコンボです。(コンボって古いですか?笑)

 

先ほどの写真のように、
カメを至近距離で撮影しようと思えば、
泳ぎながら水深を上げざるを得ないこともあります。
(カメは水面に向かって泳いでいくことも多いので。)

では、例えばこの時、

息を目一杯吸って止めた状態でカメを追いかけて
いつの間に水深10m→5mまで浮上してしまったら…

これって、あり得ない話ではないですよね?

運よく肺の過膨張障害にならなかったとしても、
肺にはかなりの負荷がかかっていることになります。

ですので僕は、
カメやマンタや魚の群れを煽って撮影する際には、息を吐いた状態で止めて泳ぐようにしています。

もちろん、息を吐いた状態だろうが何だろうが
浮上するスピードが速ければ減圧症のリスクも増大しますし、
このやり方がお勧めですと言っているわけではありません。

しかも、息を吐いた状態で止めて
泳ぐというのはかなり苦しいですし、

どう考えても指導団体が推奨している
理想的なダイビングスタイルではありません。

今のところ僕にとってはそれ以外に
良い方法が思いつかないのでそうしているだけです。

 

今日はここまで「肺の過膨張障害」
と言う観点から息堪えについて考えてきましたが、

息堪えによって体内に二酸化酸素が蓄積され
減圧症のリスクが上昇する
とも言われています。

ですので、
やはり本来は息を止めるべきではないのでしょうし、
もし普段から僕のように息堪えをすることがあるなら、
減圧症予防に関してもより高い意識を持つべきです。

 

今日はあえてまとめませんし、
息を止めなくたってもちろん水中写真は撮れます。

それに、呼吸を自分でコントロール
しきれていない状態の方にとっては、

水中でリラックスした呼吸を続けられるようになること
の方がずっと重要です。

変に息を止める癖をつけてしまうより、その方が水中撮影にも集中できますからね。

息堪えに限ったことではなくて、
・なぜいつも5mで3分間安全停止しているのか?
・なぜ講習でマスクを外して付け直す練習をしたのか?
・なぜ生き物の写真を撮る時には目にピントを合わせるのか?
など、ひとつひとつ、自分の頭で理解する事が大切なのかなと思います。

それでは、

今日もここまで読んで下さりありがとうございました!
少しでも皆さんの参考になったようでしたら嬉しいです。

 

(更新:2017.2.24)

 

 

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