(2019.11.11 更新)
こんにちは、上出です。
最近、これから一眼で水中ワイド撮影を始めるという方から、
「ワイド用のレンズ、どれがオススメですか?」
という質問をよくいただきます。
もちろんその都度回答しているのですが、何度も答えているうちに自分の頭の中も整理できた気がするので、今日はここで僕なりの考えを紹介しますね。
僕が普段ニコンD850をメインで使っているので、「Nikonのフルサイズ」で話を進めますが、Canonでも考え方は同じです。
(SONYのミラーレス一眼は、状況がちょっと違うと思います。考え方は大きく変わらないのですが。)
それから前提として、水中ワイドの描写というのは、レンズの特性だけでなくポートによっても変わってきます。
僕はアンティスのポートしか使っていないので、他社のポートを使うと、また事情は違ってくるかもしれません。
その点はお許しください。
では、早速いきましょう。
※検索でこの記事が出てきた時に、いつ書かれたものかパッとわからないかなと思い、冒頭に更新日を入れるようにしてみました。
■そもそも、何を基準にレンズを選ぶのか?
例えばNikonのD850で水中ワイドを撮るとして、レンズの選択肢が一つしかなければ話は簡単なのですが、今は選択肢がいくつかあるわけです。
そして、どのレンズも水中で使うために設計・販売されているわけではないので、いくらメーカーのHPや価格ドットコムの口コミを見ても、正直よくわかりません。
じゃあどうやって選ぶのかというと、もちろん詳しい人にオススメを聞いてもいいのですが、
そもそもあなたが
何を撮りたいか
どう撮りたいか
がないと、レンズは選べないんですよね。
と言いつつ、僕も最初は漠然と「水中ワイドにはどのレンズがいいんだろう」と思っていました。
なので、これまで僕に質問してくれた方々を責めているわけではないですよ。笑
最初はみんなそんな感じです。
この記事では、「何をどう撮るのか」という視点で、「これがいいんじゃない?」というレンズを紹介していきます。
答えがあるわけではないですし、あえてみんなと違うレンズを使うという選択もありなので、参考程度に読んでみてください。
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm + Z-330 f13 1/250秒 ISO400)
■水中ワイド用のレンズは大きく分けると2種類
僕が水中ワイド用に使っているレンズは、
①AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
②AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm f/3.5-4.5E ED
の2種類です。
①が超広角ズーム、②がフィッシュアイですね。
水中ワイドを一眼で本格的に撮るなら、「超広角」か「フィッシュアイ」のどちらかが必要になります。
撮りたい被写体やイメージが多岐にわたるなら、どちらも持っているのがベターです。
ちなみに僕は、最初に①を買って、後から②を買いました。
②の方が後から発売されたので、まあ当たり前と言えば当たり前なのですが、それ以外にも理由があります。
実は、①の超広角レンズは、元々陸上で使っていました。
このNikonの14-24㎜というレンズ、陸の世界では「神レンズ」と呼ばれるくらい描写性能に優れたレンズなのです。
僕は今でも、風景や星空を撮る時には迷わずこのレンズを選びます。
陸で使う分には、四隅も流れずシャープに写るので、撮ってて本当に気持ちいいレンズです。
一方、フィッシュアイレンズは陸で使うと当然歪むというか、The魚眼という描写になるので、僕は陸ではほぼ使いません。
(D850 + NIKKOR 14-24mm f8 1/400秒 ISO100)
さて、ここからが本題です。
陸では超優秀で、癖もなく使いやすい14-24㎜ですが、水中だと事情が違います。
結論から言うと、四隅が流れてビヨーンと伸びるので、使いづらいです。
自分が見ている景色が、そのまま写りません。
ミナミハンドウイルカの体はこんなに長くありません。
(D750 + NIKKOR 14-24mm f11 1/320秒 ISO1000)
四隅に被写体が無い場合は、14-24㎜の水中での癖はあまり出ませんね。
そういう意味では、慎重にフレーミングする必要のあるレンズです。
癖があること自体は悪いこととも言い切れませんが、癖を理解したうえでコントロールする技術は求められます。
(D750 + NIKKOR 14-24mm +Z-240 f9 1/250秒 ISO400)
もちろん、悪い事ばかりではありません。
このレンズの良さは、真っすぐなものを真っすぐ写せるという点です。
これは16-35㎜など他の超広角レンズでも同様で、フィッシュアイと比べた時のメリットですね。
(D750 + NIKKOR 14-24mm f11 1/200秒 ISO1600)
さて、話を8-15mmフィッシュアイレンズに移しましょう。
陸上で使うと物凄く特徴的な描写になるフィッシュアイも、水中で使うとその個性が急に失われます。
これは、良い意味でですよ。
14-24㎜が水中に入ると曲者に変身するのと逆で、8-15㎜フィッシュアイは、自分の見ている水中世界を違和感なく再現してくれます。
(違和感なくとは言っても、実際の視野よりだいぶ広い画角です。)
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm + Z-330 f13 1/200秒 ISO640)
最短撮影距離は、14-24㎜で約30㎝、8-15㎜フィッシュアイで16㎝です。
つまり、フィッシュアイの方が被写体にギリギリまで寄れます。
マンタやカメなど、場合によっては触れるくらい寄れることもある被写体は、フィッシュアイの方が有利ということですね。
14-24㎜でうっかり寄り過ぎると、ピントが合わず、シャッターも切れず、悲しい気持ちになります。
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm + Z-330 f11 1/125秒 ISO400)
画角に関しても、寄れる被写体はフィッシュアイの方が有利です。
フルサイズで14-24㎜の14㎜側を使うと画角114°、8-15㎜フィッシュアイの15㎜側を使うと画角180°ですので、全然違います。
マンタとか、14-24㎜だとどうしてもはみ出ちゃうんですよね。これはこれで良いとも言えますが、悲しいと言えば悲しいです。
(D850 + NIKKOR 14-24mm + Z-330 f11 1/250秒 ISO640)
■僕が超広角レンズ(AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED)を使うケース
ここまで、14-24㎜に関しては、どちらかというとネガティブな話を多くしてきました。
たぶん、メリットとして書いたのは「真っ直ぐなものが真っ直ぐ写る」ということくらいです。
でも、この「真っ直ぐ写る」というのが、とっても大事なんですよね。
もちろん好みにもよるのですが、僕は真っすぐなものは真っすぐ写したい、そんな一本気な男なんです。
言葉の使い方間違ってる気もしますが。笑
なので、被写体に真っすぐな部分がある場合は、14-24㎜を選択することが多いですね。
大砲がぐにゃっと曲がってたら、気持ち悪いなと。
(D850 + NIKKOR 14-24mm + Z-330 f11 1/160秒 ISO500)
マングローブはフィッシュアイで撮る方も多いですが、僕は超広角派です。
若木を入れて撮るのが好きなのですが、やっぱり天に向かってまっすぐ伸びていって欲しいですよね。
光芒も真っすぐの方が好きです。
(D850 + NIKKOR 14-24mm f16 1/400秒 ISO2500)
もう一つ、水中写真で真っ直ぐなもの代表と言えば「水面」です。
イルカやクジラ、サンゴなど、浅場での撮影は水面が写り込むことが多いので、できれば超広角で撮りたいという気持ちはあります。
でも、他にも考えないといけないことはあるわけで…後で詳しく解説しますね。
(D750 + NIKKOR 14-24mm f10 1/250秒 ISO800)
そうそう、14-24㎜や16-35㎜には、もう一つ「ズームできる」というメリットもあるんでした。
8-15㎜フィッシュアイは、フルサイズで使う場合には「8㎜円周魚眼」か「15㎜対角線魚眼」か、どちらかです。
なので、いわゆるズームレンズのようには使えません。ズームレンズだけど、実際には単焦点レンズとして使うことになります。
ちなみに、このレンズをAPS-Cで使う場合には、ズームができます。
細かい説明は割愛しますが、使える焦点距離が11-15㎜、35㎜版換算だと16.5㎜-22.5mmくらいです。
さて、話を戻しますが、なぜズームできることがメリットになるのでしょうか?
答えは、寄れない被写体でもそこそこ大きく写すことができるからです。
例えば、サメなんかが該当しますね。
見た目とは裏腹に臆病な性格なので、野生のサメは寄りたくても寄らせてくれません。
フルサイズのカメラに8-15㎜フィッシュアイなんかを装着してサメを撮ろうと思うと、米粒みたいにしか写らないことがほとんどです。
なので、僕も(ジンベエザメ以外の)サメの撮影は14-24㎜で臨みます。
16-35㎜を持っている方は、そっちの方が適しているかもしれません。
(D750 + NIKKOR 14-24mm + Z-240 f11 1/250秒 ISO400)
■僕がフィッシュアイレンズ(AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm)を使うケース
先ほども書きましたが、寄れる被写体はフィッシュアイで撮影することが多いです。
マンタや魚の群れなんかは、超広角でギリギリまで寄ると、被写体を画角に収めることができません。
カメやイソバナのようにそこまで巨大でなくても、やはり入りきらないことが多いです。
特に群れの場合は、画面の四隅にまで被写体が入ることが多いので、超広角だと四隅の流れが目立つんですよね。
フィッシュアイだと丸っと収まるので「群れ感」は出しやすいのかなと思います。
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm + Z-330 f13 1/250秒 ISO500)
こんな言い方をするのもあれなんですが、水中で使う分には、フィッシュアイレンズの方が簡単なんです。
ちゃんと被写体に寄れれば「それっぽく」写りますし、被写界深度も深いので画面全体が比較的シャープに写ります。
そういう意味で、僕みたいに「どうしても真っ直ぐ撮りたい」とか「寄れないサメをなんとか撮りたい」みたいな思いがなければ、とりあえずフィッシュアイで良いと思います。
14-24㎜は使う理由があって使うレンズ、8-15㎜フィッシュアイは理由がなくてもとりあえず使えるレンズ、というイメージでしょうか。
■超広角にしようかフィッシュアイにしようか悩むケース
ここまで偉そうに書いてきましたが、実際には僕もしょっちゅう「どっちのレンズにしよう…」と悩みます。
ワイドしか撮らない日は「D850+14-24㎜」と「D850+8-15㎜フィッシュアイ」をどちらもセットして船に積んでおくのですが、マクロも撮る日はそうはいきません。
イルカ、サンゴなんかはけっこう悩みます。
どちらも寄れる被写体なので、通常はフィッシュアイを選ぶ方が多いのではないでしょうか。
正直僕も、最近はフィッシュアイで撮ることが多いです。
その方が、撮ってて楽しいんですよね…特にイルカは。
最短撮影距離も画角も、フィッシュアイだから撮れた写真がたくさんあります。
水面を真っすぐ写したいという思いはありつつも、フィッシュアイの使いやすさに負けてしまうのです。
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm f11 1/500秒 ISO2000)
サンゴに関しては、どっちで撮るのも好きです。
サンゴの群生の仕方によってもどちらが向いているかは変わって来ると思います。
14-24㎜で撮るとどうしても四隅は流れますが、サンゴだとそこまで気にならないんですよね。
(D850 + NIKKOR 14-24mm f16 1/250秒 ISO1400)
一方、フィッシュアイでサンゴを撮ると、また全然違った雰囲気になります。
まあ、撮影した場所が違うので肉眼で見ても全然違う雰囲気なのですが。笑
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm f16 1/400秒 ISO1000)
一番悩むのは、クジラです。
水面を真っ直ぐという話もありますが、何が悩みの種かというと、寄れる時と寄れない時の差が大きいんです。
正確に言うと、「寄れる時」というか、「寄ってきてくれる時とくれない時」ですね。
これはもう、その人の撮りたいイメージだったり、何のために撮るかによると思います。
「俺はゼロヒャクでいい。
証拠写真はいらないし、距離が遠かったら諦めるよ。
クジラが目の前まで来てくれた時に、後悔したくないんだ。」
という男気に溢れるあなたは、フィッシュアイにしましょう。
運よく寄れた時、フィッシュアイじゃないとはみ出ちゃいますので。
(D850 + Fisheye NIKKOR 8-15mm f11 1/500秒 ISO3600)
「まずはクジラの姿を写真に収めたいんです。
遠くて薄っすらとしか写らなくても、それはそれで味じゃないですか。
それに、水面も光も真っすぐの方が気持ちいいですしね。」
という潔さを持っているあなたは、14-24㎜か16-35㎜がオススメですね。
僕も初めてクジラの撮影をしたときは、そんな気持ちでした。
今でも、このクジラは寄れなそうだなと思った時には14-24㎜を持って入ります。
(D850 + NIKKOR 14-24mm f11 1/400秒 ISO1250)
今日はここまで、水中ワイドを撮るには「超広角」と「フィッシュアイ」のどちらがいいか?という話をしてきました。
自分が撮りたい被写体、撮りたいイメージが明確にある場合は、これまでの解説に照らし合わせてみてください。
まだ自分が何をどう撮りたいかわからないという場合は、フィッシュアイから始めた方がいいと思います。
今回はAPS-Cの話はほとんどできませんでしたが、もし僕がNikonかCanonのAPS-C機で水中ワイドを始めるなら、間違いなく8-15㎜フィッシュアイを買いますね。
先述の通り、このレンズはAPS-Cで使うとズームもできるので、被写体に寄り切れなくてもそれなりに大きく写せます。
(ごめんなさい、僕自身がAPS-C機で超広角レンズを使ったことがないので、そこに関しては細かい事がわかりません。)
ちなみに僕は、ニコンD7000を使っていた頃、水中ワイドはTOKINA AT-X107(10-17㎜フィッシュアイ)というレンズで撮っていました。
このカメラとレンズ、実は今でもイルカやクジラのツアーの時にレンタル用として使っています。
値段の割に良く写ると言われているレンズですが、僕の印象もその通りです。
しかも、小さくて軽いので扱いやすいんですよね。
ただ、作りに関しては甘い部分もあって、現在、ズームリングを回そうとするとレンズがバラバラに崩れてしまうような状況なので、とりあえずビニールテープで固定しています。笑
(D7000 + Tokina AT-X107 f9 1/400秒 ISO800)
そんな感じで、水中用のワイドレンズは、マクロレンズに比べれば選択肢は多いとは言え、今から買う現役のレンズという意味ではそんなに種類がありません。
ぜひ自分の用途に合った一本を選んでくださいませ。
どのレンズにしようかな…と色々調べるのも、楽しいものですよ。
そして、手元にあるレンズでどうやって撮るか考えることが、成長にもつながるんだと思います。
それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました!
少しでも皆さんの参考になれば嬉しいです。
p.s.
先日マリンダイビングを読んでいたら、「バリカタマクロのススメ」という中村卓哉さんの面白い連載が始まっていました。
この中に、共感を覚えた文章がありましたので、今日は紹介させていただきます。
最近、撮り手の技巧を競い合うような、どこか自己顕示欲の強い写真が評価される風潮にある。
~中略~
しかし、己の存在や演出効果をなるべく捨てることで伝わる、被写体本来の美しさというものがある。
(マリンダイビング2019年11月号「バリカタマクロのススメ」より引用)
僕はなかなかこういう事をビシッと言えないので、代弁していただいたような気持ちに勝手になりました。
先日まで、菜酒家FU-KUさんで写真展「BRAND NEW OKINAWA」を開催していましたが、そこに込めた思いとも通じる部分があったように感じます。
僕自身、己の存在を完全に消そうとはしていませんが、「被写体本来の美しさ」を丁寧に表現することが、自分にとっての一つのテーマです。
今回の写真展でも、「珍しい生き物を探したり、特殊な撮影の仕方をしなくても、そこにいる生き物を丁寧に切り取るだけで十分作品になる」というメッセージを伝えたかったんですよね。
作品の完成度や選定、トークショーでのグダグダ感など、改善すべき点はたくさんありますが、写真展を通して皆さんとお会いできて、そして応援の言葉をいただいて、本当に嬉しかったです。
会期中、会場に足を運んでくださった皆さん、どうもありがとうございました。
実は来年も、同じ会場で写真展を開催させていただく予定です。
次回は僕の写真展ではなく、僕のセミナー・ツアーにご参加いただいた方々による合同写真展です。
詳細が決まったらまた告知しますね。
※2020年奄美大島のホエールスイムツアーに、キャンセルが出ました。
以下の日程に空きがありますので、興味のある方はご連絡ください!
②2/3(月)~2/6(木)
ツアーの詳細は以下のページに記載しています↓
2020年奄美大島ホエールスイムツアー~参加者募集のお知らせ~
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