こんにちは、上出です。
今日は珍しく、というか初めて、海外フォトコンの話をしようと思います。
先に結果を書いておきます。
International Photography Awards™ 2024(IPA2024)
プロフェッショナル部門
作品タイトル:Underwater Portraits
ネイチャー・マクロカテゴリー 1位
でした。
世界的なフォトコンテストでの1位受賞がどれだけ凄いことなのか…なんてことには興味がないでしょうし、書きません。
このフォトコンテストから得た学びを、皆さんと共有しようと思います。
「フォトコン攻略法」みたいな話は出てきませんので(それなりに参考にはなるかもだけど)、ノウハウを求めてやって来た方の期待には応えられなさそうです(そもそも1回出したくらいじゃわからない)。
順を追って、海外フォトコンのあれこれ、受賞作から学ぶこと、など紹介していきます。
■なぜIPA(International Photography Awards)に応募したのか?
これまで僕は、海外のフォトコンテストに全く興味を持っていませんでした。
というか、国内だろうが海外だろうが、自分が写真家として活動し始めてから、フォトコンテストに応募するということを考えたことがありませんでした。
自分の作品の価値を知らない人に決められるという意味もよくわからなかったし、写真ってそもそも競うものだとも思っていなかったからです。
その考えは、基本的には今も変わりません。
(資本主義社会の中で写真を生業にしている以上、競争に晒されている側面があるのは認識しています。)
ではなぜ急にIPAに応募したのかというと、お世話になっている写真家さんから、「海外フォトコン出してみたらどうですか?俊作さんならきっと上位入賞できますよ?」と、2024年の5月に言われたからです。
「あ、そうなの?僕、入賞できるの?」と素直なのか何だかわかりませんが、入賞できると言われ、急に興味が湧きました。
さっきの話と全然整合性が取れませんが、僕は案外流されやすい性格なのです。
と、まあそれはきっかけとして、海外のフォトコンテストについて勉強するいい機会だなと思ったのは事実です。
ここ数年、国内のフォトコンテストで審査員を務めさせていただく機会が増えました。特に今年は、日本水中フォトコンテストという、国内最大の水中フォトコンテストの審査員のお仕事もいただきました。
そうなってくると、必然的に「フォトコン」に対してコメントや意見を求められる機会が増えてきます。
もちろん、その時々で思っていることを真剣に答えてきました。
僕自身はフォトコンテストに重きを置いていませんでしたが、出す人にとってモチベーションや学びになればいいし、お祭りとして楽しめばいいのではという趣旨の話もしてきました。
でも、やっぱり自分がこれまでフォトコンテストに応募してこなかった分、フォトコンテストのことを知らないという自覚もあったんですよね。
国内か海外かというよりは、世界水準で見た時にフォトコンテストってどんな感じなんだろう?レギュレーションや応募&審査方法、レベルはどうなんだろう?
という興味はありましたし、勉強するいい機会だなと思いました。受賞したら箔もつくし、いいことづくめだな、と。
結局、勉強すると言っても、応募してみないと自分ごとにならないし学びも少ないので、「じゃあ出してみっか」となったわけです。
■IPAとはどんなコンテストか?
海外のフォトコンテストと一言で言っても色々あります。
ネイチャーや水中、コマーシャルなどジャンルが決まっているコンテストもあれば、ジャンルがオープンなコンテストもある。
毎年数万点の応募がある世界的なコンテストもあれば、世界的に見えて実際にはこじんまりしたコンテストもある。
という感じでちゃんと選ばないといけないのですが(たくさんのフォトコンに応募する時間も気力もない)、よくわからないので知人友人に聞いたところ、IPAが国際的に有名で、オールジャンルで規模の大きいフォトコンだということがわかりました。
パリのPX3とか東京のTIFAとかモスクワのMIFAとか、この辺の有名どころの国際フォトコンはどれもIPAから派生したものだとか。
他にも「Sony World Photography Awards」や「Wildlife Photographer of the Year」など世界的な権威のあるフォトコンがあることも知りました。
そんな中、なぜIPAに応募したかというと、たまたま募集期間内だったからです。SONYもWildlifeも募集期間内ではありませんでした。
確かPX3などは募集期間内でしたが、どうせなら一番大きいコンテストだけ出そうと思い、IPAに応募しました(他にもっと大きな規模のコンテストがあるのかどうか知らない。あれば教えて欲しいです)。
ちなみにIPAの拠点はニューヨークだそうです。
2024年度の応募作品展数は14000点以上とのことでした。
個人的にはもう少し多いのかなと思っていましたが、エントリーするのにお金もかかるので、まあそんなものなのでしょうか。
ちなみに、HIPAという別のフォトコンテストにも応募しました。
これは単純に賞金がべらぼうに高かったからです(ドバイが本拠地)。
それ以上でもそれ以下でもないですし、まだ結果も出ていないので、ここでは無視します。
■海外フォトコンテストのあれこれ
応募するに当たり、IPAを中心に、他のコンテストのレギュレーションも見てみました。
コンテストによって全然違っていて驚きました。
IPAは、ネイチャーはあくまでカテゴリーの中の一つなので、自然に対してどうこうみたいな細かい規定はないし(たぶん)、他のカテゴリーの受賞作を見ていても、アート性というか、視覚効果というか、そういうものに重きを置いている印象があります(紛争など社会的なテーマも多く取り扱っている。)。
一方、「Wildlife Photographer of the Year」は明確に自然に負荷をかける行為を禁止しているし、僕が当たり前にやっているゴミ消しも禁止だし、ネイチャーフォトコンテストであると共に、ドキュメンタリー性に重きを置いていることが感じられます。
いくつかのコンテストのレギュレーション(ルール)を見ていて、「世界的な標準」みたいなものはないんだということがわかりました。
なので、自分の方向性に合っているフォトコンに出せばいいだけなのでしょう。
そういう意味でもIPAは、そもそもレギュレーションに細かい規定があまりないので、出しやすかったです。
(他のフォトコンで受賞した作品でも、過去に発表した作品でも、5年以内に撮影したものなら基本なんでもOKだった。)
ちなみに、僕は英語が得意ではありません。
IPAの公式サイトは、表示言語が10個くらいの中から選べて、ちゃんと日本語もあります。
サイト内で言語を選べなくてもGooglechromeで「日本語に翻訳」をクリックすればいいだけなので、他のコンテストの詳細を調べる上でも英語の壁はほとんどありませんでした。
僕が見た限り応募から結果発表までWEBで完結できますので、実際にやってみると、海外フォトコンの応募の壁があるとすれば「海外」という響きだけのような気がします。
普通に誰でも出せますし、興味がある方は試しにでも出してみたら面白いと思います。
一つ思い出しました。
IPA含め、海外のフォトコンテストのWEBサイト、どれも見にくいように感じます。
重くて中々開かなかったり、受賞作を見るのに永遠に下までスクロールしなきゃいけなかったり。
これが一番の壁かもしれません。
■結果
僕は、計5点の作品を出しました。
結果をまとめて書いておきます。
受賞作はリンクを貼っておきますので、作品の詳細はリンクからIPAのHPをご覧ください。
Underwater Portraits(組写真10枚):1st Place / Nature/Macro
The White House(単写真):3rd Place / Nature/Underwater
Escape from the underworld(単写真):Honorable Mention(佳作)/ Nature/Underwater
Dreaming with the Whale(単写真):落選
Aquatic Forest of the Mangroves(組写真8枚):落選
クジラとマングローブはあえなく落選し、マクロは全て何かしら引っかかりました。
これでまた「マクロの人」のイメージが濃くなってしまう…ま、いいか。
今回初めてということもあり、どんな作品が選ばれるのかなあと思い、テイストの異なるものを入れました。
特にマクロの単写真に関しては、明るい写真と暗い写真どっちが好まれるかなあという単純な興味で、クマノミの写真を2種類入れてみたんですよね(カクレとハマという違いはありますが)。
結果、明るいカクレクマノミが3rdで暗いハマクマノミが佳作でしたが、これはまあ明るい暗いだけの話じゃないし、どっちも入ってよかったねくらいにしておきましょう。
1st Placeを受賞した組写真「Underwater Portraits」だけマクロカテゴリーに応募し、それ以外の4点は水中カテゴリーに応募しました。
あえてマクロカテゴリーにも応募したのは理由がありまして。
水中やネイチャー専門のコンテストではなくオールジャンルのIPAに応募した理由でもあるのですが、水中写真に興味がなかった人にも水中写真を見てもらいたいという思いが以前からあります。
深くは掘り下げませんが、都内のギャラリーで写真展をやるのも、同じ思いです。
もちろん水中専門というガチガチの中で勝負して勝つことにも意味はあるでしょうし、特に意図がなければ水中写真は水中部門に応募するのが普通でしょう(僕も応募したし)。
僕は僕なりに水中写真が好きで、あえて違う土俵に水中写真を持っていって勝負したいという思いもあるので、マクロ部門にも応募しました。
実際には、マクロ部門の過去受賞作を見てみると虫の写真が多かったので、「審査員もさすがに虫は飽きたんじゃない?魚っしょ?」という下心があったことも、正直に書いておきます。戦略も大事。
■IPA2024の結果を見て思うこと
ここからは広い視野で、IPA2024の受賞作を見て感じたことを書いていこうと思います。
長くなりそうなので、①受賞作品のレベル ②受賞作品の傾向 ③日本人の活躍 という3つのテーマに分けて考えてみます。
①受賞作品のレベル
まず前提として、IPAにはネイチャー、ファインアート、報道、人など、色々なカテゴリーが設定されています。
そして例えばネイチャーだったら、その中に野生動物や花、水中やマクロなど、いくつかのサブカテゴリーが設定されているんです。
これらは、プロフェッショナル部門とノンプロ部門でバサッと2つに分けられています。
受賞作の数が多いので(しかもWEBサイトが重い)、全てをしっかり見てはいませんが、ネイチャーを中心に他のカテゴリーもだいたい見ました。
当たり前ですが、本当に世界中の国の方が応募しているんですね。
割合でいえば欧米の方が多いのでしょうが、アジアの方も結構いるし、紛争地の国籍の方もいらっしゃいました。
国籍関係なく、プロフェッショナル部門の上位入賞作(ここでは3rdPlaceまでという意味)は、どのカテゴリーもかなーりレベルが高かったです。このレベルを肌で感じられただけでも、応募して良かったなと思いました。
「こんな写真どうやって撮るの?」という作品がたくさんあって、本当に見ていて飽きません(頼むから見やすいHPにしてくれ)。
ネイチャーカテゴリーはHonorable Mention(佳作)までほぼ全て見ましたが、特にドローンとか、みんな凄すぎます(自分が見慣れてないから?)。
個人的には花カテゴリーの入賞作が好きだったのですが、その話はまた後で。
僕は普段、あまり「プロだからどうのこうの」という話をするのは好きではないのですが、IPA2024に関しては、プロフェッショナル部門とノンプロ部門のレベルの差を大きく感じました。
ノンプロ部門の上位入賞作品を見ていると、どれも本当に素敵なのですが、どちらかというと「綺麗」な作品が多かったです。技術はもちろん高くて、プロと同じレベルという作者(作品)も多いと思います。
一方プロフェッショナル部門で上位入賞している作品は、技術で勝負していないように感じました。
もちろん綺麗で技術力も高い作品は多いのですが、それはあくまで手段で、作者が積み上げてきた視点や物語が作品を通して見える。
そこにはある種の覚悟のようなものが感じられます。とにかく俺は撮らなきゃいけないんだ、という。
そんな覚悟の先に、僕たちは新しい世界を見て感動するんじゃないかなと。
プロフェッショナル部門の上位入賞作には、ノンプロ部門では感じられなかった鬼気迫るものがありました。
②受賞作品の傾向
傾向について書こうかと思ったのですが、①のプロとノンプロの比較で言いたいことを言ってしまいました。
結局僕の視点で考察しているだけなので、僕が普段言ってることと一緒になってしまいますね。
大事なのは技術そのものではなくて、なぜあなたはそれを撮るのか、撮らなきゃいけないのか、という。
世界の新しい見方と出会った時に、人は感動するのかもしれません。
せっかくなので、僕自身が感動した作品を3つ紹介しようと思います。
作品を見て感じて欲しいので、僕のコメントは最小限で。
1st Place / Nature/Flowers
Nataliia Hresko
ウクライナの方の作品です。ネイチャーカテゴリー受賞作の中で一番印象に残りました。
いわゆるネイチャーという感じではありませんが、作者と対象の関係、物語が強烈に作品に乗っているように感じました。
Editorial / Press Photographer Of the Year
The Israeli-Palestinian conflict
Mustafa Hassona
最後の写真に写っているadisdasのキャップとPUMAのジャージが、やけに綺麗で今っぽくて、目を離せなくなりました。
一枚一枚の作品が痛ましいながらも美しく、祈りを感じました。
(戦争を扱った生々しい作品なので、苦手な方はご遠慮ください。)
1st Place / Fine Art/Other
Evgenii Domanov
とにかく可愛いです。大好き。
可愛いんだけど、ただならぬ狂気の様なものを感じます。
以上3作品でした。他にも本当に凄い作品がたくさんあるので、是非色々見てみてください。
そうそう、ここで紹介したのは全て組写真でしたが、IPAの一つの特徴として、単写真も組写真も一緒に審査されるんです。
受賞作を見ていても思うのですが、やはり組写真の方が物語を紡ぎやすいし、自分の伝えたいことを表現しやすいので、IPAに関しては組写真の方が有利かな?という印象です。
③日本人の活躍
そういえば日本人ってどれくらい受賞しているんだろう?と思ってプロフェッショナル部門のネイチャーカテゴリーだけ調べてみました。以下の通りです(間違ってたらごめんなさい)。
リンクも貼っておきますので、興味があれば見てみてください。
YASUSHI KASHIMA 1st Place / Nature/Seasons
Ryohei Irie 2nd Place / Nature/Seasons
Maki Amemori 2nd Place / Nature/Flowers
撮影地が書かれていない作品もありましたが、印象では、どの作品も国内で撮影されたように見えました。
僕の受賞作「Underwater Portraits」も、全て国内で撮影したものです。
撮影地だけでなく、どこか「日本っぽさ」を内包した作品が選ばれているように感じるのは、気のせいでしょうか?
花カテゴリー2ndPlaceの作品は、写真なのに和紙のような風合いに見えます。
シーズンカテゴリーの1位2位が、日本人が(おそらく)日本で撮影した作品というのも面白いですね。
「四季」というのも日本らしさの一つなのかもしれません。
冒頭で書いたように、僕は今回初めて海外のフォトコンテストに出しただけなので、いわゆる攻略法みたいなものはわかりません。
ただ、フォトコンテストという場に限らず、自分自身が日本人として海外で勝負するには、何を武器にしてどう振舞うべきか、については日頃から考えることがあります。
海外のコンテストだから海外で好まれるテイストにしよう、と考えて作風を調整する人も、中にはいるでしょう。それ自体が間違っていることだとは思いません。
とはいえやはり、もし自分がなんとなく作風を海外向けに調整して勝負したらどうなるだろうかと考えると、きっと勝てないだろうなと思います。
特に百戦錬磨の手練れが跋扈するプロフェッショナル部門では、ただ埋もれてしまうでしょう。
この話題は、写真以外の芸術の分野においても議論のある所だと思います。
村上隆や千住博が海外で活躍するに至った過程からも、学ぶべきことがあるでしょう(書き疲れてきたので先人に投げた)。
今回の「Underwater Portraits」で言うなら、「かわいい」文化という意味での日本っぽさが、水中で表現されていたことに新しさを感じてもらえたのかもしれません。
ボケを生かした被写界深度の浅い明るい水中マクロ写真は海外では評価されづらい、なんて話も聞いたことがあったので、今回自分らしい日本っぽさのある作品で受賞できたことは、それが欧米の土俵で評価されたという意味でも、素直に嬉しいなと思います。
■振り返って
今回僕は、プロフェッショナル部門ネイチャー・マクロカテゴリーの一番でした。
これはとっても栄誉のあることだし、素直に喜んでいます。
ただ、ネイチャーカテゴリー全体の一番(Nature Photographer Of the Year)の受賞は逃しました。
いきなりこれを受賞したら、敬愛する写真家の高砂淳二さんみたいで最高にカッコよかったんだけどな…なんて思ったりして(高砂さんが2022年に受賞されたのは「Wildlife Photographer of the Year」自然芸術部門の最優秀賞)。
今回初めてフォトコンテストに応募してみて、本当にいい経験をさせていただきました。
テーマを決めて応募作品を選んでキャプションを書いて、受賞作品を色々見て、という過程で、たくさんの学びがありました。
運よく受賞することができて、何が一番嬉しかったかって、いつも応援してくれている皆さんやガイドの方々が、一緒に喜んでくれたことです。
なんだか、少しだけ恩返しできたような気がしました。
余談ですが、ネイチャー・水中カテゴリーで3rdPlaceをいただいたカクレクマノミの写真は、2022年に石垣島で撮影したものです。
あの時初めて本格的なサンゴの白化を目の当たりにして、なんといえない気持ちになりました。でも、今思えば、あの時はどこか他人事だったような気もします。
こうして今、暮らしている沖縄本島で白化に直面しているのと、あの時の石垣とでは、やはり感じ方が違います。
少なくとも、このカクレクマノミの写真を撮っていた時、悲しい気持ちはなく、ただただ美しくて可愛くて、という気持ちで撮影していました。
それはきっと、紹介してくれたネイチャー石垣島の多羅尾さんが、悲壮感をみじんも出さなかったからだと思います。実際には、弱っていくサンゴを見ながら思うことは色々あったのでしょうが。
独りよがりかもしれませんが、こうして作品が世界で評価されることで、僕と関わってくれた人たちに少しでも幸せが届くなら、またフォトコンテストに応募してみようかなと思いました。
さて、受賞メールをあらためて見てみると、表彰式が11月にアテネであるそうです。
あれ?ニューヨークじゃないの?ニューヨークなら弟夫婦も住んでいるし、遊びに行こうと思ってたのに。
表彰式は諦めて、来年「Nature Photographer Of the Year」を受賞するために海に入り続けようと思います。
それでは、今日も最後まで読んで下さりありがとうございました。
少しでも参考になれば嬉しいです!