日本水中フォトコンテスト(JUPC) 審査員からのメッセージを深堀り

 

こんにちは、上出です。

2024年もよろしくお願いします。

時代は動画なのでしょうが、今年も変わらず写真と活字をベースに、のらりくらりと活動していければと思っています。

引き続き応援していただけたら嬉しいです。

 

さて、わたくしとってもありがたいことに、第2回日本水中フォトコンテストの審査員を務めさせていただいております。

先月フォトコン公式サイトに「審査員からのメッセージ」がアップれされました。

まだご覧になっていない方は、是非一度読んでみてください(他の審査員の方々からのメッセージも読んでね)。

■審査員からのメッセージ 上出俊作

 

この記事はインタビュー形式で編集者さんが文章にまとめてくれています。

以前から他のメディアでもお世話になっている大好きな編集者さんなので、特に気負うこともなく言いたいことをべらべらと話しました。

とはいえ、時間(というか字数)も限られていますし、あまり難しい話をしすぎると応募へのハードルが上がってしまうかなというのもあり、思っていること全てを話せたわけではありません。

というわけで今日は、このインタビュー記事を深堀してみたいと思います。

前半はインタビューで話した内容の深堀。後半は、インタビューでは触れられなかったもう一つの大事な要素について書いています。

 

内容に入る前に。

この記事は、「フォトコンで入賞するため」に書いているわけではありません。

もちろんそれなりに役には立つかもしれませんが、それよりも皆さんにとって(僕自身にとってもだけど)、これから水中写真という趣味をより深めて、より楽しんでいくためのヒントになればいいなと思っています。

 

フォトコンテストって、僕はそもそも全然ゴールだと思っていません。

メッセージにも書いてありますが、あくまで一つのお祭りです。

僕たちは元々、なんだか楽しそうで水中写真を撮り始めて、なんだか楽しくてここまで来ちゃったわけですよね。

その延長で、フォトコンというお祭りも楽しめばいいのではないでしょうか。

 

とはいえ、参加するならこれを機に色々学んで、得るものが多ければれば万々歳。

せっかく日本最大級の水中フォトコンが立ち上がって、僕自身も含めてそこに関われるわけですから、この機会に水中写真について今一度考えてみてもいいのではないか。

そんな感じで、今日の記事は「フォトコン入賞」のためではないけれど、「写真で人の心を動かす」ための手助けになればいいなという思いで書いていきます。

ちなみに、第2回日本水中フォトコンテストの応募締め切りは2024年1月10日までです。

出さないと何も始まらないので、だまされたと思って?この記事を読み終わったらすぐに提出の準備に取り掛かりましょう。

■応募要項はこちら

 

さて、毎度前置きが長くて申し訳ございませんが、内容に入りましょう。

「審査員からのメッセージ」の中では、写真が人の目に留まり評価されるためには、以下の2点が必要なのではないかという話をしています。

 

・視覚的なインパクト

・コンセプト(テーマ)

 

僕はそもそも写真をアートととらえている節があります。

アートの定義みたいな話はひとまず置いておいて、芸術と呼ばれるものには「絵画」「音楽」「彫刻」など色々ありますね。

それぞれ人の感覚に訴えかけてくるわけで、音楽だったら「聴覚」、彫刻だったら「視覚」だけでなく「触覚」も。

最近のアート(現代アート)だと、「嗅覚」に訴えかけるような作品もあります。

「視覚的な」というのは、そういう文脈の中で(文脈というとアートっぽい)、「写真」は「視覚」だよねという、当たり前の話です。

 

で、視覚的な「インパクト」。

インパクトといっても、「奇抜さ」や「派手さ」というのは、僕の感覚とは違います。

それよりも、いかに新鮮で洗練されているかということの方が大切ですかね。

 

新鮮さ。

つまり「視覚的な新しさ」は必要で、それがないと、見た人の目に留まらない。

ことにコンテスト上位入賞のためには、新しさは絶対条件と言ってもいいでしょう。

 

とはいえ、それが難しいんですよね。

僕だって「視覚的に新しくインパクトのある作品」なんてなかなか生み出せません。

ある意味では、写真に限らずアートの歴史というのは、「誰も見たことがないモノを作るんだ!」と多くの人が挑戦し続け、そのほとんどが失敗に終わり、淘汰の結果ほんのわずかな成功例だけが残ったということなのでしょう。

 

人の目を惹く新鮮さがあり、かつその目を写真に留まらせる洗練されたビジュアル。

そんな写真が人の心に刺さり、結果的にフォトコンテストでも多くの評価を集めるのかもしれません。

D850 8-15mmfisheye  f8 1/100sec ISO900

 

さて、次はコンセプト・テーマです。

 

自分で言っておいてあれですが、コンセプトとかテーマとかっていう言葉が、なんかふわっとしていてわかりづらいですよね。

僕なりにそれを一言で表すなら「なぜそれを撮ろうと思ったのか」ということです。

あるいは「私は世界をこう見ています」とも言えるかもしれません。

 

そもそも、コンセプトやテーマって、写真に必要なのでしょうか?

僕だっていつも「この写真のコンセプトは…」とか、考えているわけではありません。

「めっちゃ可愛いー!」とか思って撮っています。

 

写真を自分で見て楽しむだけなら、インパクトもコンセプトも必要ないのかもしれません。

友人や家族が写真を見てくれた時、コンセプトなんかなくたって喜んでくれるでしょう。

人の心が、明確なコンセプト・テーマがないと動かないとは限りません。

 

とはいえ、不特定多数の人に写真を見てもらって、それぞれの人の心を大きく動かすには、やはりコンセプトやテーマは必要なのだと思います。

その意味で、写真に込められたコンセプトやテーマ性は、コンテストや写真展という場において特に求められるのかもしれません。

 

僕の場合は、最終的に目指しているのが写真展・写真集なので、複数枚でのコンセプト・テーマはあります。

皆さんも、「マクロはこういう思いで撮ってる」とか、なんとなくでも、きっと自分なりの思いがありますよね?

個人的にはそれでいいと思いますし、コンセプトやテーマって、そこからいかに突き詰められるかなんだと思います。

 

というわけで、テーマを持って1枚の写真を撮る、あるいは1枚の写真に明確なコンセプトを込める、ということは、かなり難しそうです。

僕自身も、そういうことが全くないとは言いませんが、正直に言ってそんなにできていない気がします。

 

コンセプト・テーマについてもう少しクリアに理解するために、日本水中フォトコンテストに話を戻しましょう。

1枚の写真にコンセプトを込めることが難しいからこそ、それをやってのけた方の作品こそが、フォトコンにおいても上位入賞を果たす。

一つ例を挙げましょう。第1回日本水中フォトコンで中村征夫賞を受賞された、犬飼啓介さんの作品&インタビューです。

■第1回日本水中フォトコンテスト受賞者インタビュー(犬飼啓介さん)

 

なぜ数ある受賞作の中からこちらをピックアップしたかと言いますと…

彼は僕のセミナーに参加してくれたことがあり、僕のクジラのツアーにも参加してくれたことがあるから。

しかも、この記事の中でも、上出から水中写真を習って、それはもう最高だったと言ってくれている。

というわけで、完全な依怙贔屓であります。

 

それはそれとして、この作品はまさに「視覚的なインパクト」&「コンセプト」が際立っている作品と言えるのではないでしょうか。

インタビューを拝読すると、その真意というか、作品完成までに至る過程が読み取れます。

僕が説明するのも野暮ですので、是非インタビューを読んでみてください。

ちなみに、この作品のコンセプト・テーマは重厚感がありますが、個人的には、テーマというのはもっと軽いものでもいいと思っています。

社会や自然への問題提起などがなくても、「こんな世界の見方があるよ?」という視点があれば、それでいいのではないでしょうか。

D850 105mm SMC-1  f16 1/250sec ISO80

 

さて、ここからは「審査員からのメッセージ」の中では触れなかった話です。

 

「視覚的なインパクト」と「コンセプト・テーマ」があれば、作品として十分成り立ちます。

が、もう一つの視点があると、写真への理解がさらに深まるかもしれません。

そして、実際にフォトコンで上位入賞していたり、世の中で「凄い」とされている写真は、この要素を備えている気がします。

 

「重層性」

 

つまり、複数の要素が重なり合っていること。

聞きなれない言葉かもしれませんが、後半はこの要素について考えていきましょう。

 

ちなみに、なぜインタビューでこの話をしなかったかと言うと、

・話が長くなりすぎるから

・話が小難しくて応募へのハードルが上がってしまいそうだったから

というのが理由です。

 

それと、実はもう一つが大きくて、

・ネイチャーフォト、しかも水中写真で、そこまで考える余裕があるのか?

という疑問が自分の中に今もあるんですよね。

狙ってそんなことできんのか?と。

 

ちなみに、「重層性」という概念は、僕が考えたわけではありません。

アートの世界では、普通に重要視されているというか、必要不可欠な要素だと考えられているように思います。

僕も、ここ数年でアート関連の書籍をいくつか読んで、そういう視点があることを知りました。

 

いわゆる、レイヤーというやつですね。

Photoshopの機能のレイヤーではなくて(元々の意味は同じですが)。

一つの作品(写真)に、色んな要素が含まれている、ということ。

 

写真を見た人が、

「どこがどうなってるんだろう?」

「どんな意味があるんだろう?」

「なんでこんなに素敵なんだろう?」

などなど、いろんなことをつい深く考えてしまうような作品。

それが、重層性の持てる力なのではないでしょうか。

 

重層性という要素は、一つの独立したものとして考えるよりは、前半で深堀りした要素と絡めて考えた方がわかりやすいように思います。

つまり、先に述べた「視覚的なインパクト」と「コンセプト・テーマ」の両方に、重層性という要素が関わってくるということです。

 

まずは視覚的なインパクトから。

 

例えば僕がよく撮る、白い砂をぼかして、雲の中に被写体が浮いているような写真。

これはこれで好きなんですが、重層性という意味では、あまりないですよね。

画面を構成している要素自体が少ないですし、構図も単調になりがち。

正直に言って、こういう写真でフォトコンで上位入賞するのは難しいのでは、と思ってしまいます(審査員次第なのでわかんないけど)。

D850 105mm  f6.3 1/250sec ISO64

 

と、ここまで書いて思ったのですが、水中写真において視覚的な重層性を考えるには、「構成要素の数」と「構図」がカギになるような気がしてきました。

僕自身ごちゃごちゃした画作りがあまり好きではなく、なんでもシンプルにしたい人間ということもあり、画面の中の構成要素が2つだけという写真がたくさんあります。

たとえば、「クマノミとイソギンチャク」とか「海とカメ」とか「白砂とハゼ」とか。

もっと言えば、サンゴのポリプだけとか、構成要素が1つだけという写真もけっこうあるのですが、それはまあいいでしょう。

D850 105mm SMC-1  f10 1/250sec ISO64

 

でも探してみれば、写真を構成している要素が3つあるいは4つという写真が、マクロでもちょこちょこありました。

なんとなく、視覚的な重層性があるような、気がします…?

D850 105mm  f8 1/250sec ISO64

 

ちなみに、単純に画角の問題で、ワイドの方が写り込む要素は多くなる傾向にあります。

水中マクロ写真がフォトコンでグランプリになりづらいなんて話もたまに聞きますが、もしかするとこういう要因もあるのかもしれません。

「写真を構成する要素がより多くあった方が、作品としての(視覚的な)重層性が増す。」

そんな仮説が立てられそうですね。

 

ただ、組写真、特に写真展や写真集のようにたくさんの写真を合わせて鑑賞してもらう場合には、一枚一枚の写真の構成要素が多すぎると、ちょっとしつこくなりすぎるのかなとも思ったり。

その辺はバランスでしょうし、経験を積まないとバランス感覚もつかめないのでしょう。

少なくとも1枚の写真で勝負する場面では、重層性が鑑賞者(審査員)の心を揺さぶる一つの要素になると言っていいと思います。

 

では、「視覚的な重層性」を考えるためのもう一つのキーワード、「構図」についても見てみましょう。

これは、第1回日本水中フォトコンテストのグランプリ受賞作を参考にするのが良さそうです。

先ほどと同様、オーシャナに掲載されているインタビューのリンクを貼りますので、こちらからご覧ください。

■第1回日本水中フォトコンテスト受賞者インタビュー(吾川真之さん)

 

せっかくなので、まずは構成要素から(勝手に講評みたいなことをしてごめんなさい)。

マンタ×6、ダイバー、砂地、海、そしてマンタとダイバーの影。

いっぱいありますね。凄い。

 

構図の細かい話はここでは割愛しますが、完璧ですよね。

構図を整えるとはすなわちバランスを取ること、つまり調和を作ることです。

これだけ構成要素が多いにもかかわらず、それぞれがお互いを邪魔しないように配置され、しかも上下左右のバランスも取れています。

 

直接的に「重層性」とつながっているというよりは、構成要素が多くなると調和を取るのが難しくなりがちだけど、それらを完璧にまとめたことに妙があるということでしょうか。

調和がとれていると、鑑賞者は感覚的に「いい」と感じますし、結果的に写真を長く見てもらえます。

(写真って長く見てもらえた方がいいんです。)

 

構図の一つの重大な役割として、「鑑賞者の視線を画面の中で巡回させる」というのがあります。

そのためには、鑑賞者の視線が画面の外にすぐに出て行かず、画面の中をグルグル回ってもらう必要があります。

グランプリ受賞作は、マンタの連なりと、フィッシュアイレンズ特有の砂地の丸みによって、鑑賞者の目線が自然と画面の中を周回しますね。

もうそろそろいいかな、と思って視線を外そうとすると、ダイバーによって(体と手の向きも重要)視線が中心付近に戻されます。

 

つまりこの作品は、視線を巡回させて写真を長く見てもらうことに成功している。

では、なぜ写真は長く見てもらえた方がいいんだろうか?

この質問に対して、僕は明確な答えを持っていません。

 

でも、長い時間じっと写真を見ていると、なんかいい写真な気がしてきませんか?

写真を隅々まで見ているうちに、何か深いメッセージや、意図があるような気がしてきませんか?

 

これは、鶏と卵みたいな話なのでしょう。

いい写真、重層的な写真だから長く見る。

長く見ていると、それがいい写真で、重層的な写真だと思えてくる。

 

そんな感じです。無理やりに感じたら、ごめんなさい。

「歴史的な絵画は完璧な構図で描かれていて、完璧な構図故に長く見てもらえる」という事実があるので、写真でも同様のことが言えるのではないでしょうか。

 

さて、コンセプト・テーマの重層性についても見てみましょう。

 

前半で書きましたが、明確なコンセプトを持って1枚の写真を撮るということ自体がそもそも難しい。

それなのに、1つの作品に重層的なテーマを込めることなんてできるのでしょうか?

 

冒頭でも書きましたが、コントロールできない要素が多い水中写真でそこまでやるのは、ちょっと現実的じゃないのかなと思ってしまいます。

まあ、テーマ・コンセプトというのはずっと自分の心の中にあったりするものなので、急にその場で拵えるわけではないのですが。

 

僕にとって水中写真というのは、「重層的なコンセプト・テーマを持って撮影すべきもの」ではありません。

少なくとも僕は、毎回そういうことを考えて、狙って撮影しているわけではない。

でも、自分がずっと胸に抱いてきた思いと、目の前の自然と、さらにその場の閃きが全てピタッとはまった時に、重層的なコンセプトが作品に宿るのかもしれません。

 

先に紹介した、第1回日本水中フォトコンテストの中村征夫賞受賞作をもう一度見てみましょう。

インタビュー記事を読むと、犬飼さんの中に元々あった「生と死」というテーマが、その場の自然環境と撮影時の閃きによって、より深いものになっているように感じられます。

 

これははっきり言って、凄い。

(もちろん他の受賞作も凄いものばかり。)

でも、ここであえて言いたいことがあります。

「重層的なテーマなんて、別になくたってなくたっていいじゃん!」

です。

今までの小難しい話はなんだったんだよ、という感じですが。笑

 

もちろんジャーナリズムとしての水中写真はあった方がいい。

というか必要ですし、アートやらなにやらと分ける必要もないかもしれません。

ただ、全ての水中写真にジャーナリスティックな視点が必要なんてことはないし、社会的なテーマがなければフォトコンで上位入賞でできないなんていうのは、個人的には面白くないです。

 

それよりも、「あなたは世界をどう見ているんですか?」という視点を大切にして、それを作品に乗せられるようになれば、水中写真はもっと面白くなるんじゃないかと思っています。

それはもちろん、僕が審査員として偉そうに言うことではなく、僕自身がこれからも取り組んでいくべきことです。

 

沖縄の海は、多くの観光客にとっては「エメラルドグリーンで透明度の高い海」でしょう。

でも、僕にとってそこは、1㎝に満たない魚たちがピョコピョコと動き回る賑やかな世界であり、同時に、10mを超えるザトウクジラが帰ってくる厳かな世界でもあります。

 

あなたにとって、大好きなあの海は、どんな風に見えていますか?

第2回日本水中フォトコンテストを通して、あなたの思いが乗った、一緒にワクワクできるような作品と出会えることを楽しみにしています。

 

それでは、今日もここまで読んで下さりありがとうございました。

記事の内容が少しでも参考になれば嬉しいです!

 

 

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