写真集出版までの道のり② -商業出版が決まるまで-

 

こんにちは、水中写真家の上出俊作です。

今日は連載「写真集出版までの道のり」の第2回。

来年2027年に出版社から写真集を出せることになったので、出版までのあれこれを発信していこうというシリーズです。

 

第1回では、2022年と2025年の写真集刊行を振り返りつつ、自費出版の良い所や、感じた限界について書いてみました。

今回は、そこからどんな経緯で商業出版(出版社からの出版)に至ったのかを中心に書いていこうと思います。

 

■陽だまりシリーズについて

 

今回の出版についてお話しする前に、「陽だまり」という作品について少しだけ説明させてください。

 

2022年に写真集「陽だまり」を自費出版しました。

同時に、富士フイルムフォトサロン東京・大阪で「陽だまり レンズ越しに見つめた10mmの海」という写真展を開催しました。

この時、陽だまりというコンセプトが生まれました。

 

長くなるので「どのようにそのコンセプト・テーマが生まれたか」についてはいつかどこかで語ることにしますが、陽だまりとは何かを一言で表すと、

『小さな生き物たちが主役の、青のない海の世界』

です。

 

言葉だけでは伝わりにくいと思うので、写真集もぜひ手に取っていただけたら嬉しいです↓

陽だまりスタジオ Online Store 写真集「陽だまり」

 

この陽だまりシリーズはいつからか僕の代名詞のような存在となり、これからも撮影、発表を続けていこうと思っていました。

2022年に刊行した「陽だまり」は、2022年までの5年間で撮影した作品をまとめたものでしたので、なんとなくですが、「5年に1回くらい発表できたらいいな」と思っていたのです。

そんなわけで、

「次は2027年か。2027年に写真集を発売するには(同時に写真展を開催するには)、2026年中には準備を進めないといけないな。」

と、昨年(2025年)の段階で考えていました。

また八紘美術さんにお願いして自費出版で作ろうかな、と。

 

余談ですが、僕はWeezerというバンドが学生の頃から好きです。

Weezerのデビューアルバムのタイトルは「Weezer」で、その後何作も「Weezer」という別々のアルバムをリリースしています。

セルフタイトル自体はそれほど珍しいものではないでしょうが、さすがに同タイトルのアルバムが何作もあると、アルバム「Weezer」がどれをさしているのかわかりません。

なので、便宜的になのか正式になのかわかりませんが、「Weezer (Blue Album)」や「Weezer (Green Album)」のように、ジャケットの色で区別していました。

 

憧れのWeezerへのオマージュのように、僕も毎回「陽だまり」というタイトルで写真集を出したい…そんなことを妄想していました。

2022年の陽だまりの表紙は真っ白だったから、あれは「陽だまり(White Album)」だな。次は何色にしよう、なんて考えながら、ワクワクしていました。

が、結果的にそうはなりませんでした。

 

■きっかけはクジラの写真展だった

 

2025年、キヤノンギャラリー銀座・大阪にて、写真展「The Whales Are Coming」を開催しました。

今回は写真集の連載なので、写真展について深掘りはしません。

ただ、僕が写真展をどうとらえているかだけ伝えさせてください。

 

写真展とは言うまでもなく、写真を展示して、多くの方に自分の作品を見てもらう場です。

アマチュアとプロとの境がどこにあるのかはさておき、少なくとも写真家として生きている以上、僕にとって写真展は仕事であり、自己満足の場ではありません。

仕事なので、「なぜ写真展をやるのか?」という質問に、自分なりに答えられる必要があります。

 

写真展の意味は写真家によって様々でしょう。

「プリント作品を売って利益をあげる」とか「有名なギャラリーで開催して自分を権威付けする(ブランディング)」とか。

もちろん僕も、そういうことは考えています。

(そういう利己的なことだけではなく社会的な意義に重きをおいて開催されている方もたくさんいるはず。)

 

では、僕にとって、写真展を開催する一番の目的はなんなのか。

その答えは、

「これまで出会えなかった人に自分を見つけてもらって、新たな世界に連れて行ってもらう。」

ということです。

 

急に他力本願ですが、本当のことなので仕方ありません。

そもそもこれまでの写真家人生、流れ流されやってきました。

振り返れば「あの時あの人に出会えたから今があるな」ということばかりです。

そんな素敵な出会いがまたあるといいな、と思いながら写真展を計画・開催しています。

 

「自分の作品の力は信じているけど、自分の営業力や企画力は全く信じていない。」

という感じでしょうか。

 

 

■写真展会場に現れた編集者

 

2025年7月。灼熱の大阪。

舞台は写真展「The Whales Are Coming」の会場となった、キヤノンギャラリーです。

そこに写真家の佐藤和斗さんが、出版社の編集者さんと一緒に来てくださいました。

 

佐藤和斗さんは、奈良を拠点に活動している写真家さんで、キヤノンEOS学園大阪校の講師もされているので、ご存じの方も多いはずです。

知らない方は、まずはどれか一冊、和斗さんのオンラインストアから写真集を購入してみるのがいいと思います↓

佐藤和斗さん Online Store

 

さて、正式に発売日が決まる頃までは、出版社の公表は控えることにして、ひとまず出版社Sとしましょう。

出版社Sの編集者Kさんとします。

 

写真展「The Whales Are Coming」のテーマは奄美・沖縄のザトウクジラなので、小さな生き物が主役の「陽だまりシリーズ」とは関係ありません。

でも、写真展会場に、ちゃっかり写真集「陽だまり」を置いていました(もちろん写真集「The Whales Are Coming」も置いていました)。

 

会場内に展示されたクジラたちの写真を一通り見終えた和斗さんとKさんは、会場中央のテーブルに置かれた写真集2冊に、おもむろに手をのばします。

パラパラとページをめくりながら、二人で何やら話しています。

「辛辣な批評だったらどうしよう…」とびくびくしながら、僕はその様子を遠くから盗み見ていました。

 

二人はかなり長い時間、写真集を見てくれていました。

そして、僕のもとにやって来て、話しかけてくれたのです。

 

「展示も写真集もとってもいいですね!」

そんな感じのことを言ってくれたのだと思います。

(ごめんなさい。あまり覚えてないです。)

 

写真集を2冊とも買ってくださいました。

こうして僕は、出版社Sと、編集者Kさんと出会いました。

 

 

■出版社に企画書を送る

 

その後、編集者Kさんと連絡を重ね、写真集出版に向けて動き出しました。

Kさんから「上出さんの写真集をぜひうちから出版させてください!」と言われたわけではありません。

僕からアプローチして、「こんな写真集の企画が頭にある」という内容を、自分なりにお伝えしました。

 

写真集出版の企画書も作って送りました。

ちなみに、僕は大学卒業後5年間製薬会社でサラリーマンをしていましたが、学生時代もサラリーマン時代も、企画書なんて一度も作ったことがありません。

でも、AIに「出版社向けの企画書の作り方」を聞いたら丁寧に教えてくれたので、問題なく作れました(問題なかったのかは聞いてないのでわかりませんが)。

 

企画書は、2種類作りました。

 

一つ目は、「沖縄の水中」という広いテーマの写真集。

2014年、沖縄の海に魅せられて移住した僕にとって、「沖縄」というのは集大成にもなりえる大きなテーマです。

せっかく出版社Sから出せるのなら、この大きなテーマにチャレンジしたいと思いました。

 

二つ目は、「陽だまり」。

先述した通り、2027年に陽だまりシリーズの新作を出したいと思っていました。

もともと考えていたのは5年分の新作、つまり第二弾のような形での自費出版です。

これを出版社Sから出すのもありだな、と思いました。

 

結果的に、編集者Kさんの心を動かしたのは「陽だまり」でした。

というかそもそも、写真展「The Whales Are Coming」の時、すでに「陽だまり」がKさんの心に響いていたのです。

(クジラの写真展だったので、さすがに「陽だまりが最高」とは現場では言いにくかったのでしょう。きっと。)

 

出版社Sから陽だまりシリーズの写真集を出すにあたり、まず考えなければならなかったのは、以下のどちらの方向性にするかでした。

 

・元々上出が考えていた、5年分(2022-2026)の新作、つまり「陽だまり第二弾」として作る

・「続編」ではなく、10年分(2017-2026)「陽だまり完全版」として作る

 

正直あまり悩むこともなく、Kさんのアドバイスを素直に聞いて、後者でいくことにしました。

今回の出版では、これまでの自費出版では届けることができなかった方々へ、写真集を届けられる可能性があります。

その時届くものは「続編」ではなく、「新たな作品」であり「完全版」の方がいいだろう、と。

はじめましてなのに続編と言われても困っちゃいますしね。

 

現実的な話として、映画なんかでもそうですが、一作目はヒットしたけど二作目は大ゴケ、ということはよくあります。

そういう意味でも、「続編」はやめました。

そして無事、陽だまり完全版として、出版社Sの社内会議も通過しました。

 

というわけで、2027年に出版される写真集は、陽だまりシリーズの完全版となります。

実際には、新作が中心で、2022年の「陽だまり」に収録した作品は1~2割くらいになるのかなと。

 

2022年の「陽だまり」の系譜の中にありつつ新たな写真集であり、国籍問わず多くの方に届けたいという思いも含めて、2027年出版の写真集は『HIDAMARI』と呼ぶことにしました。

これがこのまま写真集タイトルになるか、はたまた全然違ったタイトルになるかは、まだわかりません。

 

 

■自費出版しか考えていなかった僕が、商業出版を選んだ理由

 

第1回でも書いた通り、「自分が本当に作りたいものを作るには自費出版がいい」と思っていました。

言葉を選ばずに言えば、「出版社主導の商業出版では自分の作りたい写真集は作れない」と思っていました。

 

ではなぜ、今回出版社Sから写真集を出すことに決めたのか。

理由は3つあります。

 

一つ目は、編集者Kさんの、「一緒にいいものを作りましょう」という熱意を感じたから。

熱意だけではなく、「上出さんが本当に作りたいものは何なのか」という部分を大事にしてくれていることが、会話の中から伝わってきました。

この人と一緒に写真集を作ってみたいと思えましたし、こういう縁を大切にできなければ、自分はここで止まってしまうだろうと思いました。

 

二つ目は、出版社Sがアート系写真集に強いから。

この出版社なら、自分が作りたい「モノ」が作れるかもしれない、と思いました。

これについては、また詳しく書いていけたらと思います。

 

この2つが「商業出版でも作りたいものを作れるかもしれない」と思った理由です。

(そもそもこういう前提が正しくないのかもしれませんが。)

 

三つ目は、やはり「広く届けたい」ということ(順番としてはこっちが先かもしれない)。

自分が精魂込めて作った本が全国の書店に並んでいて、誰かがそれをふと手に取って、何かを感じる。

それってやっぱり素敵じゃないですか。憧れるじゃないですか。

 

綺麗ごとばかりに聞こえるかもしれませんが、僕はその綺麗ごとを実現するために、この仕事を続けているのだと思います。

「出版社Sから写真集を出せれば写真家として箔がつくだろう」みたいなことは考えますが、それが一丁目一番地ではありません。

「出版社Sから写真集を出せれば自費出版より儲かるだろう」みたいなことも、あんまり考えていません。

 

もちろんたくさん売れてたくさんお金がもらえたらハッピーです。

でも、「いい仕事をすればお金は後からついてくる」と日頃から思っているので、そもそも「儲かりそうだからやってみる」という発想がありません。

(それがいいことなのかはわからないし、めちゃくちゃ大きな金額を提示されたらよっぽど嫌な仕事以外やると思う。)

 

というわけで、今日は出版社Sから写真集を出すことになった経緯や想いを書いてみました。

2回にわたって自費出版と商業出版について書いてきましたが、伝えたかったのはもちろん、自費出版と商業出版のどちらが優れているか、ということではありません。

僕の場合はたまたまこういう順番でしたが、結果的に全てがつながり、一本の線になりました。

自費出版で、本気の写真集を作ってきて、本当に良かったと思っています。

 

今回出版社から本を出す以上、ただ自分の作りたいものを作るというわけにはいきません。

限られた予算や条件の中で、最高の写真集を作って、全力で届ける。

買ってくれた人も、出版社も、編集者も、僕も、みんなハッピー。

そんな一冊を目指します。

 

次回は、写真集の具体的な内容や仕様について書いてみようと思います。

とはいえ、制作の進み具合によっては全然違う話になるかもしれませんが。

ここまで長い文章を読んでくださりありがとうございました。

少しでも参考になれば嬉しいです!

 

 

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