写真集出版までの道のり① -自費出版で見えた自由と限界-

 

こんにちは、水中写真家の上出俊作です。

今回から、これまでとは違った趣の発信をしていきます。

 

この度、写真集の出版が決定しました。

実際に出版されるのは、一年近く先の予定です。

大枠のコンセプト等は決まっていますが細かい部分はまだまだこれから。

というわけで、せっかく時間もありますし、写真集が出版されるまでのあれこれを、これから発信していこうと思っています。

 

なぜいきなりそんなことをしようと思ったのかと言うと、

・写真集の出版ってブラックボックスな部分が多くて調べてもよくわからない(写真集に限らず書籍全般な気もするけど)

・上出さんの文章が好きです、と言ってもらうこともたまにあるけど、最近文章らしい文章をほぼ書いていない

・出版1年前から写真集の宣伝をし続ければちょっとは売り上げが伸びるんじゃないか

という感じでしょうか。

 

これから何回かにわたって写真集の制作や出版について発信していくわけですが(何回になるのか全くわからない)、「写真集を出版したい」という方はそんなに多くないはず。

なので、そうでない方にも楽しんでもらえるように、僕がどんな風にものづくりに取り組んでいるか、何を考え何を悩んでいるか、という内側の部分も、深堀りしていけたらと思っています。

 

■自費出版と商業出版

 

今回(2027年)出す写真集は、出版社さん主導で発売されるので、いわゆる商業出版ということになるのだと思います。

僕にとっては、出版社から本を出すのは初めてなので、これからどんなことが起こるのかわかりません。

それはそれとして楽しんでいけばいいのですが、こうして出版が決まるまでに、色んな過程がありました。

 

その過程をざっくりとでも振り返っておくのは大切と言いますか、過程を発信するのがこの連載?のような気もしますし、結局全部つながっているので、書いてみようと思います。

話は2022年に私家版で刊行した写真集「陽だまり」まで遡ります。

 

ここから写真集の出版についてあれこれ書きますが、僕は出版業界の人間ではないので、所々間違ったことを書くかもしれません。

そういう細かい正誤よりも、自分の体験を大切にして書いていこうと思います。

ので、その点はご容赦ください。

 

僕はこれまで、2022年に「陽だまり」、2025年に「The Whales Are Coming」と、2冊の写真集を刊行してきました。

2冊とも自費出版で、八紘美術という印刷会社で作っています。

どちらも本気で作った力作ですので、まだお持ちでない方は是非、ぜひこちらのオンラインストアからご購入ください↓

陽だまりスタジオ OnlineStore

 

「私家版」と言った方がなんとなくカッコイイ気がしていて、これまで私家版という言葉を自費出版と同じ意味で使ってきましたが、調べてみたら厳密には違うようです。

個人的にはどっちでもいいですし、適当に使っている人も多い気はしますが、ここではわかりやすいように「自費出版」で統一しましょう。

 

僕は印刷会社で写真集を作りましたが、調べてみたら「出版社で自費出版」という選択肢もあるようです。

「自費出版だけど書店流通(Amazon含む)に乗せられる」とか、メリットも書いてありますが、僕はやったことがないのでよくわかりません。

正直、僕のまわりの写真家・カメラマンさんで、そういう出版の仕方をしているという話は聞いたことがないです。

 

これまでの僕の写真集制作は印刷会社(八紘美術)で全て完結しました。

2作とも力を貸してくれた外部の方はいますが、見積もりをもらうところから写真集が納品されるところまで、「出版社」的な会社は入りません。

印刷会社にお金を払って、本が完成して、それが僕の自宅や実家や写真展会場に納品されるだけです。

当然、書店には流通しないので、自分で売る必要があります。

 

ちなみに、書店には流通しませんが、自分で本屋に営業に行けば置いてもらえる可能性はあります。

ISBNコードは必要ありません。僕のこれまでの写真集にもついてないです。

でも、ジュンク堂書店など、お付き合いのあるいくつかの書店で僕の写真集を販売してもらっています。

 

 

■自費出版で写真集を作ってきた理由

 

2022年の「陽だまり」に話を戻します。

当時、僕が懇意にさせてもらっていた写真家の先輩方が、自費出版で素敵な写真集を作られていました。

そしてそんな先輩方が、「これまで出版社主導で写真集を作ってきたけど、なかなか自分のやりたいことができず、本当に作りたいものを作るために自費出版を選んだ」という趣旨の話をしてくださいました。

 

僕もちょうど「写真集を出してみたいな」と朧げに思っていたころだったので、先輩の一人にお願いして、八紘美術を紹介してもらいました。

僕はそもそも、かなりこだわりが強い方ですし、「完璧じゃないものを世に出す意味なんてある?」とか平気で言っちゃう人ですので、素直に「自分には自費出版が合ってそうだ」と思ったのです。

 

ちなみに、と言ったら失礼ですが、僕を八紘美術に紹介してくれた写真家さんは、岡田裕介さんです。

岡田さんの「これが君の声 青の歌 -Sound of echo,Song of blue-」という八紘美術で作られた写真集が大好きで、僕も八紘美術で作りたいと思ったのです。

この写真集は大変人気で売り切れてしまったようですが、岡田さんの他の写真集も素敵なので、ぜひ手に取ってみてください↓

岡田裕介さんのオンラインストア

 

結果的に、「陽だまり」は、自分でも納得できる写真集になりました。

めちゃくちゃ売れたかどうかはさておき、お褒めの言葉もたくさんいただきました。

なので、自然な流れとして、自分のライフワークでもある奄美・沖縄のザトウクジラの写真集「The Whales Are Coming」も八紘美術で作りました。

 

そんなわけで、正直なところ、僕はこれまで、出版社主導の商業出版というものに、それほど興味がなかったのです。

「自費出版で作りたいものを作った方がいいっしょ」と思っていました。

 

でも潜在意識下に、

「自分なんかの実績や知名度では出版社から写真集を出すことはできない」

「出せたとしても自分の作りたいものとは違うしょぼいものになりそう」

「出版社に営業に行きたくない(相手にされずに落ち込みたくない)」

という思いがあったのも、今となっては認めざるを得ません。

こうして商業出版が決まったからこそ、当時の卑屈な気持ちに気づけるのですね。

皮肉というのか、大人になったというのかわかりませんが。

 

現実問題として、アイドル以外の写真集は売れない時代と言われて久しいですし、ネイチャー系で写真集の商業出版ができる写真家はごく一部です。

と、それはそれとして、話を進めます。

 

 

■自費出版の限界

 

自費出版も2度経験すると、ある程度メリット・デメリットがわかってきました。

 

メリットはもちろん、「作りたいものを作れる」ということ。

少なくとも八紘美術のようにアートブックを多数手掛けている印刷会社なら、印刷・装丁のクオリティは高められます。

僕自身、最初から最後まで本としてのクオリティにこだわりましたし、八紘美術の皆さんも僕のわがままに付き合ってくださいました。

「もっとこうすればよかった」と思う部分もありますが、その時々でベストを尽くして、関わってくれた方みんなと最高の作品を作ることができたと思っています。

 

ちなみに僕の場合は、表紙のデザインや細かいレイアウト、入稿用(印刷用)データの作成などは、八紘美術内のデザイナーさんにお願いしました。

印刷会社での自費出版と言っても、僕のようなパターンと、外部のデザイナーさんにデザイン周りをお願いする場合と、2つあると思います。

どちらにしろ、写真集制作(本作り)に精通しているデザイナーさんに入ってもらう必要はあります。

「この人にお願いしたい!」というデザイナーがいる写真家は、外部のデザイナーに直接お願いしていて、僕のようにそういうデザイナーが思い浮かばない場合は、印刷会社内のデザイナーにお願いする、という感じなのでしょうか。

 

さて、一方のデメリットというか課題ですが。

それは、「広がらない」ということ。

他にもいくつかありますが、これが一番ですかね。

 

自分で作った以上、自分で売らないといけない。

自費出版だと、自分の活動の、コミュニティの、想像の、手の届く範囲内でしか売れません。

だからこそ写真展会場で売って、少しでも「知らない人」に届けようとしているわけですが、それも時間的、地理的限界があります。

実際の流通という意味でも、プロモーションという意味でも、結局自分一人です。

ガンガン書店営業ができればまた違うのでしょうが、僕にはその気力体力もありませんでした。

もちろんSNSを頑張るとか、色々やりようはあるのでしょうが。

正直に言って、自費出版でめちゃくちゃ広げられて、めちゃくちゃ売っている人を見ると、凄いな…と思ってしまいます。

 

そう、めちゃくちゃかどうかは別としても、作った以上はそれなりに売らないといけない。

趣味で一生に一度なら話は別でしょうが、仕事として継続していく以上、利益を出さないといけません。

でも、それなりに売れないと利益が出ない、というか赤字になります。

逆に、売れれば売れるだけ自分の利益になりますから、売れる人にとってはメリットとも言えるのですが。

これまでたくさんの方にお世話になって写真集を作ってきて、そういう方々に迷惑をかけたくないので細かい金額は書きませんが、ひとつの例として、数字を出しながら考えてみます。

 

2022年発売の「陽だまり」は700部作りました(これは事実)。

その制作費用が、納品送料など全て含めて税抜300万円だったとしましょう(これは架空)。

「陽だまり」の販売価格は税抜6000円です(事実)。

なので500部売れると、ようやくトントンということになります。

6000円の写真集を500部売るって、そんなに簡単なことじゃありません。

ありがたいことに「陽だまり」は500部くらい売れました。

 

長くなるので「The Whales Are Coming」の話は割愛しますが、ざっくり言うと、僕の場合は2度の自費出版を通して赤字にはなっていないけど、ほぼ利益が出せていない。

これが一つの大きな課題なわけですが、作った分を売り切れていないということは、「家に在庫がある」ということでもあります。

これは経験しないとなかなかわからないと思いますが、それなりにストレスです。

僕は見て見ぬふりをすることでやり過ごしていますが(よくない)、在庫の山に心を蝕まれて「自費出版なんて二度とやらない…」と意気消沈している写真家さんもいると聞きます。

 

ちなみに、「それなら最初から売り切れそうな部数だけ作ればいいのに」と思われるかもしれません。

そこに罠があります。

 

少なくとも僕がこれまでに作ってきたような写真集では、500部作ろうが1000部作ろうが、コストがそんなに変わらないのです(もちろん何万円かは変わるけど)。

なのでせっかくなら多めに作って、たくさん売れたら儲けもん、という考えについついなってしまいます。

というか、500部しか作らなかったら、500部完売で利益が出る価格設定にしないといけません。

先ほどの例で言ったら、1000部作るのに300万円、500部作るのに280万円だとしましょうか。

6000円で500部売ると売上300万円、制作費が280万円ですから、利益20万円です。

1年かけて写真集を作って、全力で営業して、手取り20万円では仕事と呼べないですね(実際にはたくさん作っても売れなければこうなるわけですが)。

 

では、例えば500部完売した時に利益が200万円欲しいとしましょうか。

そうすると、定価を9600円にしないといけませんね。

9600円×500部=480万円

売上480万円 – 制作費280万円 = 利益200万円

です。

9600円(税込10560円)という値付けをする勇気がありますか?

という話です。

別に罠でも何でもないですね。普通に商売の話です。

 

たくさん作り過ぎて余剰在庫を持ちたくない…

でも制作部数を減らすと定価を上げないと利益が出ない…

利益を出すために制作費を削るしかない…

でもケチったら作りたいものが作れない…

 

というジレンマが、いつもありました。

実際にはここであげた製作費は架空のものですが、イメージとしては大きくは外れないはずです。

 

 

■二度の自費出版を経て思うこと

 

さて、自費出版で経験したあれこれを書いていたら長くなってしまいました。

確かに僕は自費出版でまとまった利益は出せていないのですが、心から「やってよかった」と思っています。

 

「広がり」という意味では限定的だったとしても、自分の心のこもった作品を、多くの人たちに届けることができました。

本を作って販売したことで、新たな出会いや未来の仕事が生まれました。

自分がお金を出して本作りと本気で関わったことで、印刷や製本についてゼロから学べました。

自費出版に力を貸してくださったみんなに心から感謝していますし、本気で作った写真集を届けることで、少しは恩返しできたと思っています。

 

では、次回はそんな僕がどうやって商業出版に至り、どんな新作を作っていきたいのかについて書いていこうかなと思います。

ここまで長い文章を読んで下さりありがとうございました。

少しでも参考になれば嬉しいです!

 

 

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