LightroomのAIノイズ除去は水中写真でも使えるのか?

 

こんにちは、上出です。

毎年台風の時にブログを書くのが恒例だったような気がするので、今年も書こうと思います。

書き始めた現在、名護は暴風域の中で、数年ぶりに怖いレベルの嵐が吹き荒れています。

すでに停電している地域や、被害を受けている家屋もあるようです。

これ以上被害が大きくならないことを切に願います。

 

さて、今日はLightroomに3カ月前くらいに搭載された、AIノイズ除去について考えてみようと思います。

基本的な使い方はYouTubeなりなんなりにたくさん情報が出ていますので、割愛します。

自分のLightroomにAIノイズ除去がない!という方は、最新のバージョンに更新してください。

ちゃんとボタンが現れるはずです。

せっかく僕が書くので、「水中写真で使えるのか」という話をメインでしようと思います。

 

■どんなケースでAIノイズ除去が使えそうか?

AIノイズ除去、出た当初からけっこう話題になっていました。

ちょうどクジラの季節が終わった頃だったと思います。

なので、クジラの写真にAIノイズ除去をかけてみたんです。

すると、なんだかクジラの体がヌルっとして、質感はなくなり、「こりゃ水中写真では使えないや」と思ったのでした。

 

そこから数カ月。

SNSなんかにもちらっと書きましたが、マングローブのシリーズを発表するために、これまで撮影してきたデータを現像し直していました。

(どんな形で発表できるかどうかは未定。決まったらお知らせしますね。)

 

そもそもAIノイズ除去って何かという話をここでしておきます。

基本的には、「ISO感度を上げて撮影したことによって乗ってしまったノイズを除去する」ための機能です。

では、水中写真でどんな時にISO感度が上がるのか、上げざるを得ないのか?

一言で答えるなら、「暗いのにストロボを使えない(あえて使わない)ケース」ですね。

僕の場合は、主にクジラとマングローブです。あとは、水中洞窟に入って光を撮っている時とか。

暗いけど自然光で撮らざるを得ない場合には、ISO感度を上げるしかありません。

 

マクロは、人によって異なるでしょう。

僕はストロボで撮影しますし、自然光を入れたくないので、ISO感度は基本的に64、上げても200くらいです。

なので、高感度ノイズは問題になりません。

ライトで撮影している方は、ISO感度を上げることもあるでしょうから、この限りではないと思います。

 

話を戻します。

マングローブは、奥に入っていくとかなり暗いです。

ストロボは使っちゃいけないわけではありませんが、浮遊物の写り込みが凄いことになるので、僕は使いません。

しかも、魚を入れようと思ったら、泳いでいる魚を止めようと思ったら、遅くても1/200秒以上は切りたいところです(実際には1/200秒では中々止まらないけど)。

というわけで、マングローブもISO感度は上げざるを得ないことも多く、ノイズがそれなりに乗ります。

なので、「クジラではいまいちだったけど、マングローブではどうだろう?」と思い、使ってみたのでした。

D850 14-24mm  f14 1/400秒 ISO3600

 

■AIノイズ除去を使ってみた感想と適用量

マングローブの写真、30数点プリント用に現像し直しました。

そのうち、最終的にAIノイズ除去を使って仕上げたのがどれくらいかというと…半分くらいです。

つまり、かなり使えました。

このAIノイズ除去って、ノイズが除去されるだけでなく、解像感が損なわれないというのが特徴です。

身も蓋もないというのかなんというのか、本当にそうなら、とりあえず全部使えばOKなんじゃないかという気もします。

じゃあ何で半分くらいは使って、半分くらいはやめたのか。

2つ理由があります。

 

①偽色が現れた

パッと見はわからないのですが、等倍で拡大して見ると、元はなかった変な色が現れていました。

いわゆるフリンジのような偽色もあれば、ちょっと違う雰囲気のものもあり。

偽色が認められなかったカットもあったので、全てではありません。

どれもSNSに載せるくらいなら気にしなくていいレベルですが、大きく伸ばして展示することなんかを考えると個人的には怖いです。

というわけで、偽色が出た場合はAIノイズ除去は使いませんでした。

 

②解像感がなくなった

なんかヌルっとしました。確かにノイズは消えているのですが。これはクジラの時に感じたことと同じですね。

そもそも元の写真がそんなにノイズが乗っていないというのもあるかもしれません。

AIノイズ除去を試してみて、そのままの方がいいなと思うカットでは、適用しませんでした。

 

AIノイズ除去を使ったことのある方は、「それって適用量いくつでかけたの?」と思われるかもしれません。

AIノイズ除去機能では、自分でどれくらいの強さ?でAIノイズ除去をかけるか、適用量を変えられるようになっています。

「ノイズ除去」をクリックすると「強化プレビュー」というのが出てきて、デフォルトでは適用量50という数字が入っているはずです。

 

マングローブの写真に適用量50でAIノイズ除去をかけたら、100%ヌルヌルになりすぎました。

めちゃくちゃ気持ち悪かったので、適用量20でやり直しました。

それでいい感じのカットもありましたが、ちょっとヌルっとし過ぎに感じるケースが多かったので、適用量10に着地したカットが多かったです。

ネットやYouTubeなんかを見ていると「とりあえず適用量50で」と言っている方が多いように見えました。

これは推測ですが、おそらく陸写真をやっている方の方が、近頃高感度をどんどん使っているのだと思います(ISO10000以上とか)。

なので、AIノイズ除去も強め(というかデフォルトの50)にかけて、ちょうどいいくらいなのかなと。

 

水中写真界隈?は、ISO感度を上げたくない人が多いように感じます。

実際、僕も理屈ではもう少し上げてもいいと思っていても、無理くりISOが上がらない設定にしてしまうこともあります(ISO2000くらいに収めたいなとついつい思ってしまう)。

一つには、水中写真、特に海の青に乗った高感度ノイズが目立つというのがあるのかもしれません。

水中写真は基本的に霞んでいるので、かすみの除去や明瞭度のパラメータを上げたくなり、それに伴ってノイズも乗る、というのもISOを上げたくないという心理が働く要因でしょうか。

 

ここで参考までに、陸写真でAIノイズ除去の効果を比較してみたので、見てみてください。

やんばるの森で撮影したホントウアカヒゲです。

 

Canon R7+EF300㎜/f2.8

f2.8 1/250秒 ISO3200 ノートリミング

①ノイズ除去なし↓

②AIノイズ除去「適用量20」↓

③AIノイズ除去「適用量50」↓

 

パッと見が一番綺麗なのは、適用量50ですかね。

ただ、個人的には、拡大してみるとちょっとヌルっとし過ぎのように見えます。

ノイズが残り気味の適用量20の方が、僕はしっくりきました。

この辺は好みの問題も大きいですし、元々のISO感度や機種による違いもあると思います。

当然現像の仕方でもノイズの乗り方は変わってきます。

自分で試しながら、しっくりくる適用量を探すのが現実的ですかね。

 

適用量をどうするかはさておき、陸写真の方がAIノイズ除去の効果がわかりやすいというか、素直に「すげー」と思いました。

鳥を含め陸上の自然写真はデータが膨大にあるでしょうから、AIノイズ除去の効果の精度が高いのでしょう。

それに、そもそもカメラ・レンズの設計も、AIノイズ除去のプログラムも、陸前提で開発されているはずですしね。

それほど色々試したわけではありませんが、陸写真に比べると、水中写真でAIノイズ除去を使う場合はちょっと慎重になる必要があるかな、というのが今の僕の感覚です。

 

■AIノイズ除去はクジラの写真でも使えるのか?

マングローブでそれなりの効果を感じたので、クジラでももう一回試してみるか、と思いまして。

そういえばまだ手を付けていないクジラの写真があったはずだ、と思い探してみました。

すると、現像をさぼっていたカットがめちゃくちゃたくさんありました。笑

今年はシーズン中毎日海に出ていたので、現像が追い付いていなかったのでしょう…

せっかくなので、ISO感度がそれなりに上がっている写真で試してみました。

それぞれ拡大した写真も載せておきます。

 

D850 35mm WACP-1

ISO5600 f7.1 1/640秒

①ノイズ除去なし↓

②AIノイズ除去「適用量20」↓

③AIノイズ除去「適用量50」↓

 

AIノイズ除去が登場した時には「クジラで使うと不自然になるなあ」と感じた記憶があります。

なのに今使ってみると、適用量50でも大きな違和感は感じません。

というか、「すごいな」とすら思います。

個人的には適用量50だとちょっとヌルっとし過ぎかなと思いますが、もしかしたら、AIノイズ除去適用前の画像を見ているからそう感じるだけかもしれません。

最初からこの画像を見たら何も感じないかも?とも思います。

皆さんがどう感じるのか、純粋に気になります。

 

AIノイズ除去をかけたとき、クジラは思いのほか自然に仕上がったのですが、背景の海に違和感が出ました。

特に、右上の浮遊物が写り込んでいるあたりが、おかしなグラデーションになりました。

この辺は気をつけて使わないといけないのかもしれません。

 

■AIノイズ除去をかけるタイミング

さて、この機能を使っていると、一つ疑問が生まれます。

「AIノイズ除去は、最初に適用するべきなのか、最後に適用するべきなのか?」です。

僕がさらっとネットで調べた限りだと、どうやら最初に適用するのが一般的なようです。

 

RAWファイルをいじっていない状態でAIノイズ除去適用

→新たに生成されたRAWファイルを編集・現像

 

という流れです。

でもこれだと、現像していって、後から「適用量50でかけてたけど、やっぱり20でよかったな」と思った時に、後戻りできません。

現像しているRAWファイルは、すでにAIノイズ除去されたファイルなので。

これは不便だなと思って、どういうフローがいいのか考えてみました。

 

上記の場合、元々のAIノイズ除去を適用していないファイルに戻って、適用量20で再度新たなRAWファイルを生成します。

それから、先に生成していた適用量50の、すでにゴリゴリ現像したファイルを同期します。

水中写真の現像って、ゴミ消しが一番面倒ですよね…?

なので、ゴミ消しもちゃんと同期されるように、「修復」にチェックを入れましょう。

これで、AIノイズ除去の適用量だけ異なる、同じ編集をした2つのファイルができあがりです。

 

さて、これで「最初にAIノイズ除去をかければOK」ということになったのですが…

水中写真は特にそうだと思うのですが、現像してみないとどれくらいノイズが乗ってくるかわかりません。

だったら、後からAIノイズ除去をかけた方が理にかなっているのでは?とも思います。

というわけで、マングローブ・鳥・クジラで、「最初にAIノイズ除去」と「後からAIノイズ除去」で差が出るのか比べてみました。

もちろん、全く同じ編集をしています。

 

結果、どの被写体でも、びみょーに結果が違いました。

ノイズ感や解像感は、僕には差がわかりません。

が、なぜか色が違いました。比べてやっとわかる程度なのですが。

鳥は等倍拡大してやっとわかる程度、クジラは背景の青の抜け感。

正直、僕にはどっちがいいかは判断できないレベルです。

 

なので、現時点での結論は、「AIノイズ除去は最初でも最後でもどっちでもOK」でした。

 

■そもそもなぜノイズを除去するのか?

 

ここまで解説してきた通り、AIノイズ除去は水中写真でも効果が望めます。

AIですから、これからデータが蓄積されていけば精度も上がっていくでしょう。

なので、どんどん使っていけばいいと思います。

まとめはそれくらいにして、最後にひとつ思うことを。

 

そもそもノイズって、そんなに忌み嫌って、消さなくてはいけないものなのでしょうか?

写真って、とにかくクリアで、解像しているのが理想なのでしょうか?

今に始まった議論ではありませんが、僕自身は、「もっとクリアに!もっと高解像度に!」という現在の風潮には疑問を感じます。

(撮影時も現像時も自分がついついそう考えてしまうので、反省と戒めを込めて。)

 

家でよく開く写真集があります。いくつもあるのですが、ここでは3冊を。

 

星野道夫の旅/星野道夫

これが君の声 青の歌/岡田裕介

DISTANT DRUMS/濱田英明

 

どの写真集も、開くたびに感動します。

もちろん「めっちゃ解像してる!」という感動ではありません。

3冊分まとめて一言で表すなんてことはできませんが、少なくても写りとか綺麗さだけに感動しているわけではないのです。

特に星野道夫さんの写真集は、フィルム時代ということもありますが、ピントも甘ければブレてもいます(あえてかもしれないけど)。

でも、心にすっと入ってくるし、ずっと見ていられるんです。

 

ある意味、これまでは「ノイズを消して解像感を残す」ということが困難だったから、どうやってそれを成し遂げようかと考えてきたのでしょう。

それが達成された今、ノイズを消すべきなのか、あるいは写真にとってノイズとは何なのか、があらためて問われているのかもしれません。

僕自身、ヌルヌルした写真よりも、ちょっとザラっとした感じが残っている方が、写真らしくていいなと思います。

でも、いざ現像しようと思ってモニターと向かい合うと、写真をどんどんクリアにしようとしている自分がいます。

 

写真が写真たる所以、そして現代における写真の役割とは何なのだろうか?

きっと、その自分なりの回答が、写真展・写真集の中に表れるのでしょう。

 

最後はふわふわした話になりましたが…今日もここまで読んでくださりありがとうございました。

少しでも皆さんの参考になれば嬉しいです!

 

D850 14-24mm  f11 1/400秒 ISO6400

 

 

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