こんにちは、上出です。
今日は
水中写真における「ふんわり」とは何か?
というテーマについて考えていきます。
僕が開催しているプライベートフォトセミナーでは、お申し込みいただいた段階で、事前アンケートへの回答をお願いしています。
その中の項目の一つに「どんな水中写真を撮れるようになりたいですか?」という質問があるのですが、回答の中に「ふんわり」という言葉を見ることが多いんですよね。
人によって「ふんわり」につながる文脈や前後につく言葉は異なりますが、どうやら「ふんわり」というのは、現代の水中写真を考えるうえでひとつのキーワードになっているようです。
D850 105mm Z-330 f8 1/250秒 ISO64
この記事では、「みんなでふんわり水中写真を撮ろう」とか「ふんわりは正義か悪か」とか、そういうことを言いたいわけではありません。
「そもそもふんわりって何?」ということを理解することで、読者の方が自分なりに作風をコントロールできるようになったらいいな、という思いで書いていきます。
おそらく今日のテーマは、人によって考え方が分かれると思います。
それは、プロとかアマチュアとか、水中とか陸上とかに限らずです。
そもそも、水中写真において「ふんわり」という概念を作ってきた先輩方がいるから、こういう記事が成り立つという側面もあります。
そういう意味で、お世辞でもなんでもなく、新しい表現にチャレンジし続けひとつの時代を切り開いてきた先輩方を、僕は心から尊敬しています。
今日の記事では、そういった「ふんわりの歴史」に敬意を表しつつも、一旦そこから離れて、僕が思っていることを勝手に書きます。
ですので、「上出はこう考えてるのかー」くらいでとらえてもらえたらいいのかなと。
自分が納得できる部分だけそっと引き出しにしまってください。
というわけで、内容に入る前に3つ伝えたいことがあります。
え?3つも?
と思ったかもしれませんし、僕も書いていてそう思いました。笑
まあ、大事なことなのでお付き合いください。
D850 105mm Z-330 f6.3 1/125秒 ISO64
一つ目。
僕は普段、「ふんわり撮ろう」とは考えていません。
もちろんその場その場で、「もう少しぼかそうかな」とか、そういうことは考えます。
僕にとって「ふんわり」や「かりっと」というのは、目的ではないということです。
それらはあくまで表現の手段であって、伝えたいことを伝えるための選択肢のひとつにすぎません。
実際には、僕は明るめの写真の方が好きだし、マクロに関してはボケを生かした画作りが好きです。
なので、それが僕の水中写真家としてのイメージになっているかもしれません。
そこに「ふんわり」という言葉を当てはめる方もいるでしょう。
それはそれで、別にいいんです。
実際、「作風」がブランディングになることもあるでしょうし。
「ふんわり撮れるようになりたい」
「ふんわり撮るためにどうすればいいんだろう」
そう考えること自体は自然なことだと思いますし、その過程で学びも多くあるはずです。
ただ、そこで止まらずに、その先にあるものにも目を向けて欲しいなと思っています。
D850 105mm SMC-1 RG Blue System3 f10 1/200秒 ISO400
二つ目。
ここが今日の記事の目次ですかね。
「で、ふんわりって何なの?」という話です。
ふんわりって、みんななんとなく共通のイメージはあるけど、ちょっと掴みどころのない言葉ですよね。
何となくはわかるけど、説明しろと言われても説明できない。
そんな感じではないでしょうか。
こういう時には、とにかく分けて分けて分けましょう。
分けること、すなわち分かることです。
この記事ではふんわりを以下の3つに分けて考えてみようと思います。
①ボケ
②明るさ
③色
まずはここを整理しましょう。
「ふんわりっぽさはあるんだけど、何か理想とは違うんだよな」
自分の写真を見ていてそう感じていたあなた。
おそらくふんわりを分解することで、何が足りなかったのかが見えてくると思いますよ。
D850 105mm SMC-1 Z-330 f14 1/250秒 ISO200
三つ目。
記事を書き始めて気づいたのですが、このテーマ、かなり多岐にわたる内容を含んでいます。
深掘りしすぎると、全然前に進みません。
なので、この記事は総論的なまとめ方をしようと思います。
ふんわりの全体像を、ざっくり掴んでいただけたらいいなと。
まあ、全体像と言っても、僕が勝手に考えているふんわり像ですけどね。
では、ようやく内容に入っていきましょう。
ふんわりを3つの要素に分解して、それぞれ見ていきます。
D850 105mm SMC-1 Z-330 f18 1/250秒 ISO100
①ボケ
単刀直入にいきます。
ふんわりした水中写真には、ボケの要素が必要です。
被写界深度がどうこうという話は置いておいて、全くボケの要素がない写真というのは、「ふんわり」とは形容されないと思います。
一般的に、コンデジ(TG-6とか)よりもマイクロフォーサーズのミラーレス一眼(OM-Dとか)の方がボケますし、マイクロフォーサーズよりもフルサイズ(D850とかα7シリーズとか)の方がボケます。
多くの人が、「もっとぼかしたい」と思ってカメラをステップアップしていくのは、そういうことです。
ボケには、
「奥行きを強調する」
「情報をそぎ落として画面を整理する」
なんていう効果があります。
僕が水中マクロでボケを積極的に使うのは、こういう効果を狙っていることが多いですね。
ただ、こういう効果が「ふんわり」というワードに直結するかと言われると、ちょっと疑問です。
「ふんわり」に直結するのは、「輪郭があいまいになって柔らかい印象になる」という、もっと単純なことなのかなと思います。
というか、そんなに難しく考える必要はないのかもしれません。
D850 105mm SMC-1 Z-330 f16 1/250秒 ISO200
ちなみに、ボケを生かした画作りをする時に、以下の2点を意識できると、作品としての洗練度が上がるはずです。
1、ピントを合わせたいところに確実に合わせる
写真の中でボケを使うということは、ボケていないところ、つまりピントの合っているところに写真を見た人の視線が集中するということです。
つまり、この一点(あるいは面)で何かを感じさせると同時に、画面を引き締めないといけません。
ピントの位置がちょっとでもずれていると、伝えたいメッセージは伝わりませんし、写真を見ていてなんとなく居心地が悪くなります。
2、どれくらいぼかすのか自分で決める
ぼかすと言っても、ディテールが完全になくなるまでぼかすのか、ある程度ディテールが残るくらいぼかすのかによって、印象が全く変わってきます。
これは、「どっちか」ではなく、グラデーションなので選択肢は無限です。
現実感や遠近感を、自分なりにコントロールできるようになると面白いと思います。
ボケに関しては、書きたいことがたーくさんあるので、次回各論的に解説しましょうか。
とりあえずここでは、「ふんわり」を構成する要素の一つが「ボケ」だということを押さえておいてください。
自分の写真を見ていて「色味や明るさは思い通りなんだけど、なんか思ってるふんわりと違う」と感じたら、ボケが足りないのかもしれません。
②明るさ
ふんわり水中写真にはボケの要素が必要不可欠だということがわかりました。
そのうえで、下の写真を見てください。
D850 105mm Z-330 f6.3 1/250秒 ISO100
この写真、目にピントが合っていて、顔はなんとなくわかりますが、胸びれから尾びれは完全にボケていますよね。
f6.3で、最短撮影距離付近で撮影しているので、当然っちゃあ当然です。
さて、この写真を見て「わーふんわり可愛いー」と言う人はいるでしょうか?
次の写真も見てみましょう。
D850 105mm SMC-1 Z-330 f10 1/125秒 ISO100
これは、「ふんわりで可愛い」と言ってもらえそうです(そう言われたいわけではないですが)。
もうお気づきですよね。
ふんわり水中写真は、全体的に明るいんです。
いくらボケを印象的に使っても、暗かったらふんわりとは言わないと思います。
D850 105mm Z-330 f11 1/250秒 ISO200
写真を明るくすること自体は、難しいことではありません。
ストロボやライトを調整したり、カメラのモードの設定を工夫すればどんなカメラでもできます。
ある程度は、後から編集でも明るくできますね。
「ボケは作れているし色は鮮やかなんだけど、なんか思ってるふんわりと違う」と感じたら、全体的にちょっと暗いのかもしれません。
ちなみに、明るさには「コントラスト」という概念もあります。
・コントラストを強くする
→明るい部分をより明るく、暗い部分をより暗くして、明暗差を大きくする
・コントラストを弱くする
→明るい部分をおさえて、暗い部分を持ち上げて、明暗差を小さくする
コントラストを強くすればキツイ印象、ダイナミックな印象の写真になります。
一方、コントラストを弱くすれば、優しい印象、すなわち「ふんわり」した写真になります。
全体的に明るめに仕上げるだけでなく、コントラストを抑えてあげるのも有効なんですね。
③色
ここが一番難しいです。
人によって好みが分かれると思います。
色も深掘りしようとすると永遠に掘り続けられてしまうので、理論的なことは最低限にしましょう。
色というのは、3つの要素で構成されています。
色合い、鮮やかさ、明るさ、です。
明るさについては先ほど触れたので、もういいでしょう。
一つ一つの色の明るさがどうというよりは、全体が明るい方が「ふんわり」っぽくなるという話でした。
では、「色合い」についてはどうでしょう?
色合いとは、ざっくり言うと、青とか赤とか緑とか黄色とか…ようは、「何色か?」ということです。
では、ふんわりに適した色というものがあるのでしょうか?
下の2枚の写真を見てみましょう。
どちらも、まあふんわりしてますよね(ふんわりと言われたいわけではないですよ)。
ちなみに、紫と緑は色相環において補色(反対にある色)です。
どうやら、この色はふんわりで、この色はふんわりじゃない、ということではなさそうですね。
次に彩度について考えてみましょう。
上の写真を、彩度だけを変えて現像してみました。
これは難しいですね。
彩度を落とし過ぎると色褪せた雰囲気が強く、ふんわりの雰囲気とはちょっと違うということはわかります。
じゃあどれくらい彩度を上げればふんわりなのかというと、もちろん答えはありません。
ここは、厳密にいえば明るさとの兼ね合いもありますし、自分でコントロールするしかないですね。
残念ながら僕には「ある程度の彩度があったほうがふんわりには近づくんじゃない?」くらいにしか言えません。
D850 105mm Z-330 f8 1/250秒 ISO100
さて、最後に、色に関する大事な話をして終わりましょう。
実際、ここまでの話は水中に限ったことではなかったのですが、最後だけは水中写真に限った話です。
皆さんご存知の通り、水中では色が失われます。
色を取り戻すために、ストロボやライトを使いますよね。
水中に存在する光は、ストロボやライトの光+太陽光(自然光)です。
結論から言います。
僕の水中マクロ撮影は、自然光ができるだけ入らないようにして、ストロボ(かライト)の光のみで被写体の色を再現します。
なぜなら、自然光が入ると色かぶりしやすいからです。
色かぶりというのは、明確な定義があるのかどうかわかりませんが、被写体が青っぽく、あるいは緑っぽくなって、本来の色が出ていないことですね。
完璧に色かぶりしている写真もあれば、色はほぼ再現されてるけどちょっと色被りしてる写真もあります。
僕は、色被りしていない、被写体の持つ本来の色がパリッと出ている写真が好きです。
だから、自然光を入れない撮り方をしています。
D850 105mm Z-330 f6.3 1/250秒 ISO64
では、自然光を入れて撮影するのは間違いなのでしょうか?
少しでも青被りしている写真は、失敗写真なのでしょうか?
そんなわけないですよね。
水中写真は自由でいいんです。
自分が綺麗だと思ったら綺麗だし、それで誰かが何かを感じてくれたら万々歳。
僕はそう思います。
実際、あえて自然光を生かした水中マクロの画作りをしている方もいます。
もしかしたら、そういう撮り方の方が「ふんわり」の主流なのかもしれません。
そして、考え方によっては自然光を入れて少し色被りさせた写真の方が「リアル」と言うこともできます。
だって、僕たちが水中で見ている世界は、色被りしてますもんね。
僕が撮っているような写真は、被写体の色は再現できているかもしれないけど、実際に水中で見えている世界とは違います。
そもそも「リアル」を求めるかどうかという問題もありますし、ここでしたいのは「どっちがいい」という話ではありません。
自然光を排除した撮り方と、自然光を生かした撮り方。
この2種類があるということを知っておくことが重要なんです。
個人的には、とにかく柔らかさを追求するなら、自然光を入れた方がいいと思います。
メリハリのある色を出したいなら、自然光はできるだけ入れない方がいいのではないでしょうか。
自分なりに理屈を理解して、どちらも試して、どちらか好きな方を選べばいいと思います。
もちろん、シチュエーションによって使い分けてもいいですしね。
D850 105mm SMC-1 Z-330 f11 1/250秒 ISO64
今日は、水中写真における「ふんわり」について考えてきました。
昔からずっと言ってますが、人の心を動かすような水中写真を撮るためには、生まれながらのセンスなんて必要ありません。
僕自身、小さい頃からアートっぽいものが苦手で、ずっと「センスがない」と思って生きてきました。
でも大丈夫。凡人には凡人なりの戦い方があります。
壁にぶつかったら立ち止まって、課題を一つ一つ分けて、丁寧に解決していきましょう。
ピカソやジョブズにはなれなくても、人を感動させるような水中写真は撮れるようになります。
それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました。
少しでも参考になれば嬉しいです。
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