こんにちは、上出です。
まともなブログ記事を書くのは今年初ですね。
余計な話はせず、早速内容に入ろうと思います。
今日は、水中ライト「RGBlue」の話です。案件とか広告記事とかではありません。
好意で貸していただいて、気づけば1年使っていたので、せっかくなら皆さんに公開する形で使用感をまとめてみようかなと。
なので、感じたことをできるだけそのまま書きます。
動画を全く撮らない、しかもストロボが大好きな水中写真家がライトをどう使うのか、興味があれば読んでみてください。
■使い始めた経緯
ちょうど1年前、マリンダイビングフェア2022の時。RGBlueを開発・販売している株式会社エーオーアイ・ジャパンの方々とお話しする機会がありました。
僕がこれまで水中写真の光源としてストロボだけを使ってきたことなどをお話しすると、よかったらRGBlueを使ってみてくださいという話になりまして。
借りるからには何かでお返ししないとな…でも、ライトあんまり使う気ないしな…と思っていると、僕の気持ちを見透かしたように「とりあえず使ってみてください。必要なさそうなら、それで全然かまわないので。」とおっしゃっていただき、ありがたくお借りすることになりました。
お借りするにあたって簡単な打ち合わせをさせてもらったのですが、その時にエーオーアイ・ジャパンの社長からいただいた言葉が印象深かったので、ここに残しておきます。
細かい言い回しは覚えていないので、要旨だけです。以下の2点を意識しながら、この1年間RGBlueを使ってきました。
・作家は道具に縛られてはいけない。道具はあくまで、作家の可能性を広げるもの。
・ライトをストロボの代替品としてとらえない方がいいだろう。ライトならではの可能性を探る方が面白い。
■どの種類を借りたか
お借りしたのは、「RGBlue システム01:re スーパーナチュラルカラー」×2です。
RGBlueの色は「スーパーナチュラルカラー」と「プレミアムカラー」の2種類から選べます。
スーパーナチュラルの色温度が5000K、プレミアムは4200Kなので、相対的にスーパーナチュラルの方が寒色(青系)、プレミアムの方が暖色(黄色系)ですね。
例えばJPEG撮って出しで被写体の色をできるだけ再現したい、しかも背景の海は抜けのいい青にしたい、等の思いがあれば、プレミアムカラーの方がいいのかなと思います。
僕の場合はRAW現像前提ですし、しかもストロボと一緒に使うことも想定されたので、ストロボの色温度(5500Kくらい)に近いスーパーナチュラルカラーにしました。
僕はプレミアムカラーを使ったことがないので、どっちがいいというのは、あまりわかりません。
バッテリーも2種類から選べます。
僕は大容量バッテリーではなく、標準バッテリーにしました。
本来大容量の方が電池残量を気にせずガンガン使えるのですが、できるだけ陸上重量を軽くしたかったんです。
僕の撮影機材は、D850、105㎜マクロ、Nauticamのハウジング、メガフロートアームS、SMC-1、SMC-2…と、陸上ではけっこうな重さです。
しかも、ハードな環境でのビーチダイビングもします。
水中重量は中性浮力に近いですし、RGBlueも専用のフロートが用意されているので問題ないのですが、陸上重量をできるだけ増やしたくないなと。
■どんなシステムを組んだか
せっかく2つお借りしたんだから、2つ使うのが筋だろうと思いました。
ライトを2つハウジングにつけて、ライトだけで撮ってみようと思いました。
でも、じゃあ実際にライト2灯で何をどう撮るんだろうと考えると、全然アイデアが浮かびませんでした。
もちろんライト2灯で素敵な写真を撮っている方はたくさんいますが、自分にとってはライトじゃなければならない理由が見つけられなかったんです。
どうしてもストロボの代替品のような使い方になってしまいそうでしたし、はっきり言ってそれならストロボでいいじゃんという話です。
詳しいことは割愛しますが、ストロボには「被写体を止められる」という大きなメリットがあるので、僕はやはりストロボが好きです。
ストロボを外して代わりにライトをつけて撮影に臨むというのは、「道具に縛られない」という方向性からも外れてしまいそうでした。
そこでひとまず(狙いはあったんだけど。後述)、普段通りストロボを2つアームにセットした状態で、RGBlueはポートの上に1つ取り付けて、もう1つは手持ちで持っていって何かに使えそうなら使う(バックライトとか)という運用にしました。
結果的に、このシステムで1年間通してしまいました。
(RGBueが見やすいように専用フロートは外しています)
■どうやって作品づくりに生かしたか
タイトルにも書いちゃいましたが、スローシャッター撮影でRGBlueは活躍してくれました。
RGBlueを使い始めたことで、僕のスローシャッターに対する理解は以前よりも格段に深まりましたし、表現の幅も広がりました。
詳しく解説します。
スローシャッター写真というのは、ざっくり言うと、シャッタスピードを遅くしてあえてブレを作るような撮り方ですね。
何のためにブレを作るのかは人それぞれでしょうが、動きを表現したいとか、幻想的な雰囲気を出したいとか、そんな感じでしょう。
水中写真のスローシャッターというと、残像をとらえたような描写が想像しやすいかもしれません。
スローシャッターはストロボがなくても撮れますが、ストロボ無しのスローシャッター写真は画面の中の全てがブレてるように写ります。
それはそれでいいですし、全然ダメではないです。
僕もRGBlueをどうやって使おうかと最初に考えた時、ストロボなしで、RGBlueだけでスローシャッターを撮ろうかと思っていました(実際にちょっとやってみたけど、自分の撮りたい写真とは違ってやめた)。
一方、ストロボを使ったスローシャッター写真は、残像と止まった像、どちらも写ります。
一般的には後幕シンクロに設定することが多いと思うので、その前提で説明すると…
①シャッターボタンを押す
②シャッターが開いて露光が始まり、ブレている像が記録されていく
③シャッターが閉じる瞬間にストロボが発光して、止まった像が記録される
と言う流れです。言葉は不正確かもしれませんが。
シャッタスピードによって②の長さは変わりますね。
僕はクマノミなんかを撮る時は、だいたい1/10秒前後で撮っていました。
D850 105mmMicro Z330 RGBlue f10 1/10秒 ISO64
さて、②のブレ(残像)を記録しているステップ。
RGBlue導入前は、自然光のみでブレを写していました。
というか、実は僕スローシャッターのことをあまりわかっていなくて、そういうものだと思っていました。
自然光+ストロボでスローシャッターを撮ると、毎回必ず青被りします。
まあ、当たり前ですよね。
普段僕は青被りが嫌で、自然光を全く入れないような撮り方をしてるんですから。
なので、これまではRAW現像でこねくり回して青被りを軽減していました。
でも、RAW現像で完璧に青被りがなくなるわけではありません。
これもスローシャッターらしさかーと思うようにしていたんです。これまでは。
RGBlueをお借りするタイミングで、思ったんです。
もしかしたら、②のステップを自然光ではなくライト光にすれば、色被りしていないスローシャッターが撮れるのではないか、と。
つまり、「自然光+ストロボ光」ではなく「ライト光+ストロボ光」にするということですね。
(とはいえ自然光を完全になくせるわけではありませんが。)
しかもRGBlueはRa95。演色性(色の再現性)の高いライトです。これは色被りの改善に一役買ってくれるのではないかと思いました。
そんな思いがあったから、セッティングもストロボ2灯+RGBlue1灯になったんですね。
スローシャッターだけならストロボ1灯+RGBlue2灯でも撮れそうですが、そうしてしまうとスローシャッター以外が撮りづらくなるのでやめました。
D850 105mmMicro SMC-1 Z330 RGBlue f16 1/5秒 ISO64
この使い方が自分にとってはいい感じでした。
スローシャッター撮影時の色被り、なくなりました。
(晴天時の浅場なんかではさすがに太陽光に負けるので環境を選ばなくていいわけではないけれど。)
ここまでは、偉そうに言えば予想通りだったんですが…何が自分にとって良かったのかというと。
青被りを恐れる必要がなくなったことで、これまで以上にスローシャッターを使う機会が増えたんですよね。
これまではほとんどクマノミしか撮っていませんでしたが、他の被写体にもチャレンジするようになりました。
そして、人とスローシャッターの話をする機会も増えました。
するとすると、「こんなスローシャッターの使い方もできるのでは」という発想が生まれ、表現の幅が広がったんです。
1年間RGBlueを使った今、まさに「道具に縛られるのではなく、道具に可能性を広げてもらう」という現象が起きたように感じています。
D850 105mmMicro Z330 RGBlue f18 1/2秒 ISO64
■ターゲットライトとしても活用
もう一つ、いいことがありました。
僕はこれまで、明るさが足りない環境での撮影には、補助光としてストロボについているターゲットライト(フォーカスライト)を使っていました。
撮影機材はできるだけシンプルな方がいいと思っているので(それは今も変わらない)、ストロボにピント合わせ用のライトもついてるならそれで一石二鳥じゃん、と思っていたんです。
とはいえ、ストロボのターゲットライトを使うデメリットも感じていました。
・電池の消費を気にする必要がある(ライトはけっこう電池を食う)
・ストロボを被写体ではなく背景に向けるなどトリッキーなライティングをする時にターゲットライトが使えない
上記の2点が、ポートの上にRGBlueをつけたことで解決しました。
まあ、当たり前なんですが。
それだけだと「別にどのライトでもいいじゃん」となってしまいそうなので、一つ付け加えると、RGBlueの演色性の高さはここでも生きました。
演色性が高い方がAFの性能も上がる…みたいなこともあるようですが、それは置いておいて、単純に目の前の被写体がずっと綺麗な色で見えているというのは、なんだか嬉しかったです。
これまであまり気にしていませんでしたが、演色性の高いライトを使うとけっこうテンションが上がるものなんだなと思いました。
そしておそらく、こうして見ている(記憶している)色が、陸に上がってからの現像にも影響を与えているのだと思います。
D850 105mmMicro SMC-2 Z330 f18 1/250秒 ISO64
■唯一のデメリット
さて、いいことばかり書いてもあれなので。
使い始めた時から今までずっと感じている、ライトを装着したことで感じたデメリットを書きます。
1つ目。ポートの上にライトをつけていると、肉眼で被写体が見づらいです。
撮影時はファインダーを見ているので問題ないですが、例えばダルマハゼを撮っているとき。
ファインダーの中で被写体を見失うことがありますよね。そんな時は、顔を少し上にずらして、肉眼で被写体の位置を確認します。
この時に、ライトが邪魔で被写体が見づらいんですよね。
2つ目は、オーバーハングにいるオキナワベニハゼなんかを撮る時。
できるだけ上から撮りたいのですが(普通の魚を煽って撮るのと同じ)、上から撮ろうとするとライトが天上に当たります。
なのでこういう時は、ライトをハウジングから外して撮影していました。
正直、デメリットはこれくらいですかね。
自分にとっては、スローシャッター撮影時の色再現&ターゲットライトとしての価値を考えれば、上記の2点はRGBlueを使わない理由になりませんでした。
細かくは触れませんでしたが、操作性も良かったので、製品としての不満はありません。
D850 105mmMicro SMC-1 Z330 RGBlue f14 1/15秒 ISO64
■結論
最初はどうやって使おうか悩んだRGBlueでしたが、結果的には、自分の表現の幅を広げてくれました。
製品を貸してくださり、しかも示唆に富んだ言葉を授けてくれた、エーオーアイ・ジャパンの皆さんに感謝しています。
これからも引き続き、RGBlueを使わせてください…
ここに今日書いたことはRGBlueの一般的な使い方ではないかもしれません。
動画も撮る人にとっては、RGBlueはさらに出番の多い撮影機材になるでしょう。
静止画専門でも、RGBlueだけでライティングしている人はたくさんいます。
どちらにせよ、自分が今なぜその撮影機材を使っているのかを考えることは大切ですね。
今回は僕にとっても、それを深く考えるいい機会になりました。
またどこかで詳しく解説しようかと思いますが、これまで当たり前だと思っていた後幕シンクロではなく、先幕シンクロを生かしたスローシャッター表現が使えることにも気づきました。
これからも、今ある機材でどんな表現ができるのか探求していこうと思います。
そして、もっとこんな機材があったら素敵という話も、メーカーの皆さんとできたらいいですね。
それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました。
少しでも皆さんの参考になれば嬉しいです!
D850 105mmMicro Z330 RGBlue f18 1/4秒 ISO64
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